泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

大阪市の「障害児」たちへ

 どうせまたいつもの「最初は極端なことを主張しておいて、結果的に物分かりよく意見を聞いて譲歩したかのように見せる」手法のひとつに違いないので、反射的に対処するのもばかばかしいが、書かないわけにもいかない。
橋下市長:小中学生に留年検討 大阪市教委に指示
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20120222k0000e040179000c.html
 いろんな読者がいることを想定して念のために最初に書いておくが、以下は最初から最後まですべて激怒しながら勢いで書いた皮肉である。
 卒業するだけの学力のない知的障害児や発達障害児はずっと義務教育の中でがんばるしかないね。進級できないよ。永遠の児童生徒だ。もう学校の中で一生を終えよう。みんなよかったね。もう働く場所の心配とかしなくていいよ。「義務教育」が一生面倒を見てくれるらしい。
 いや待てよ。普通学級じゃなくて特別支援学級や特別支援学校に行ったら進級してもいいって言うのかな。その子たちは「障害児」だから。「障害」をもつ子どもは勉強ができなくても仕方が無いけれど、「障害」がない子どもは勉強ができないと困るのかな。
 だとしたら、きっとその「障害」っていうのは、はっきり目に見えるものなんだね。どこを見たらわかるのかな。僕にはまだ見えたことがないけど、きっと頭のいい人には見えるんだろうね。きっと学校の先生とかお医者さんが「これが君の障害だよ」って指差して教えてくれるよ。お母さんたちはもう「発達障害の本人への告知」とかで悩まずに済むね!
 子どもへの対応に苦労している普通学級の先生はもうこれで困らないよ。「このままだと留年してしまいますから、支援学級に行ってもらった方がいいですね」って言えばいいんだ。おめでとう、先生たち。これで「普通学級に子どもを通わせることにこだわる」保護者を説得しやすくなるね!
 ただでさえ生徒数が増えている特別支援教育はこれで大繁盛だね。支援学級生や支援学校生はたくさんお友だちが増えるよ。特別支援学校はひとりあたりの生徒に巨額な予算がつぎこまれているってたびたび批判されるけど、きっとなんとかしてくれるよ。なんたってあの教育熱心な橋下さんだもの。
 支援学級生が進級してく中で、普通学級で留年した子どもたちは、自分よりも勉強ができないのに進級していく子どもたちをどんなふうに見つめるのだろうね。「障害児でいいなあ」と思うのかなあ。僕も「障害児になりたい」と思うのかなあ。知的障害の子どもなんて、これまで「あなたみたいになりたい」なんて言ってもらえる経験がない子がほとんどだったよね。障害をもつ子どもが誰かに取っての理想の姿になれるなんて画期的だね。24時間テレビ以上の感動を呼ぶよ。
 「お前、俺より勉強できないのになんで進級しているんだ」って、いじめられちゃうかもしれないって? 地域の学校でいじめられたら、その学校をやめて特別支援学校に行くといいよ。スクールバスに長く乗らなきゃいけないし、近所のお友だちとは会えなくなるけど、みんな進級できるお友だちばっかりだから、きっといじめられずに済むよ。支援学校はみんな平等なんだ!
 でも、お母さんはもしかしたら引っ越そうって言いだすかもしれないんだ。「引っ越します」って言ったら、学校も橋下さんも笑顔で手を振ってくれると思うよ。その笑顔は、君たちの新たな門出を祝ってくれているに違いないよ!