泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

発達と規範

 特集が発達障害だったので、思わず買ってしまった。

現代思想2007年5月号 特集=発達障害 療育の現場から

現代思想2007年5月号 特集=発達障害 療育の現場から

 ぱらぱらと読んではみたものの、あまりに医学、療育的な話ばかりで、うんざりしてしまった。1998年2月には「特集:身体障害者」もあるが、読み比べると全くアプローチが違う。
 このあたりから、もうちょっと違う方向へと展開できたら、面白そうだと思うのだが。

 青年期における世界の側からの規範の強制は、「健常者」にも程度の差はあれ起こりうる。とすれば「健常者」はどのようにその規範の無根拠さを引き受けているのだろうか。「健常者」がこの無根拠さを引き受けられるのは、「世界」に対する信頼があるからだろう。「世界」に対する信頼は、情動の回路が他者(母親)との情動的コミュニケーションによって形成されるさいに最初に生まれてくる。その後、身近な人間関係のなかで、この信頼はいっそう確かなものになれば、不信にもなりうる。この「世界」への信頼は具体的な他者との情動的コミュニケーションを通して得られるのであって、このような媒介がない信頼というのはない。統合失調症者においては、他者との情動的コミュニケーションが不信という形で形成されることが多いために、規範の無根拠さを引き受けることが出来ず、「世界」は不信に満ちた様相で出現する。さらに自閉症者について言えば、彼らは規範の無根拠さを問うことはなく、そのような問いに対して一般に無関心である。これは彼らの内省能力の問題というよりも、彼らの自己システムはそのような問いによっても揺らがないほど強固に固定されているためと考えるのが適切だろう。
十川幸司「二つの『エディプス』」146ページ