泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

こんな経営実態調査で何がわかるというのか

 厚生労働省から5月20日付で「障害福祉サービス等経営実態調査」の調査用紙が届いていた。たぶん「障害福祉サービス」を提供した実績のある事業所ならば、みんな届いているだろう。提出締切は5月31日。
 「24年4月の報酬改定の基礎資料にするので、ご多用のところ恐縮だが協力してくれ」と言う。届いてから提出締切までの期間が10日ほどしかないところに、実は本気で回収する気も参考にする気もないんじゃないかと邪推するが、実態をわかってもらえないのも困る。まったくもってご多用のところ、回答して返送することにした。
 この種の調査は、だいたい回答しづらい。だから、過去の調査もだいたい記入途中で投げ出してきた。
 そして、今回も例外ではなかった。
 調査対象サービス名称は「行動援護」だ。
 「経理区分ごと」に回答するように求められており、調査内容は「主に収支状況、従事者数、給与等」とされている。
 すなわち「『行動援護サービス』が属する経理区分において、収支を明らかにしてね」ということである。
 22年度の事業所の行動援護サービス実利用者数は3人である。そして、年間の延べ利用回数は86件であった。収入としては、110万程度である。
 障害福祉に全く詳しくなくても、「行動援護」が何かを知らなくても、「なんだか少ない」ということはわかっていただけるであろう。確かにそのとおり。常勤職員ひとりさえ雇えない。ただ、「行動援護」の利用者数は全国でも5000人から6000人程度であったと思う(これでもだいぶ増えた)。自治体ごとの運用のバラツキがひどいため、利用者ゼロの地域なんてのもたくさんある。人口3万5千人程度のエリアの事業所として、3人はそれほど少ないとも言えない(多くもないが)。
 報酬改定の参考にすると言われているのだから、収支のバランスというのを示さなければ意味がないであろう。これはあらゆる事業種別の経営調査について言えるはずだ。
 「行動援護」の収入は正確な数字が当たり前に出てくる。問題は支出である。
 何しろ年間110万の収入なのだから「行動援護」のための職員というのは、ひとりもいない。従業者に課される要件が高いこともあって、アルバイトのヘルパーもいない。職員はみんな他事業との兼務で、行動援護もしている、というのが実態である。おそらく「行動援護」をやっている多くの事業所が似たような状況にあるのではあるまいか。「行動援護」だけで職員を何人も雇えている事業所はほとんどないはずだ。
 うちの法人の場合、「行動援護」に限らず他の事業についてもほとんど兼務ばかりなので、決算の際に常勤職員の人件費の扱いが難しい。22年度決算では、およその業務量で人件費を振り分けているが、「行動援護」のように月あたり7件ぐらいの提供実績しかないと、その振り分けさえも難しい。いったい何%を振り分ければいいのか、は、感覚的なものにしかならない。こんなものを参考にされて、報酬が高いとか安いとか言われたのではたまらない。さて、どうしたものか。
 そもそもの実態として「行動援護」は、障害をもつ人たちの外出を支援する「移動支援」と一体的に行われていることがほとんどである。調査用紙を見ると「地方公共団体等からの補助事業収入(地域生活支援事業を含む)」という欄がちゃんと用意されているではないか。「移動支援」は制度上ここに含まれるものなので、この欄も記入していけばよい、とまずは考える。
 ところが「行動援護」と「移動支援」を合わせて収支を出したところで、やっぱり実態を示したものにはなりがたい。
 移動支援と行動援護を合計すると収入は1千万ぐらいになる。人件費支出をどう算出するのかは変わらず難問だが、振り分けをやや大目にしても、黒字になる。ただ、これは外出支援的なものの収支を出しただけだ。多くの障害福祉サービス事業所は、必要だが金にはならない不採算事業を抱えている。うちであれば、日中一時支援事業とか、子どもたちの長期休暇の居場所づくり、とかである。「多くの事業所」と言うのは、言い過ぎか。誰かの生活を支えるために必要なことであれば積極的にやろうとする事業所は、である。はじめから稼げる事業しかやらないところもある。生活を、稼げる制度のほうに合わせるように巧みに仕向けていく事業所もある。
 それらの採算のとれていない事業こそ報酬改定のための検討に値すると思う。それがそれとして調査されるのであればよいが、この調査はあくまで国が「障害福祉サービス」として列挙した61事業を対象としているので、全く検討されない。収益性の高い事業で、赤字をカバーしているなんてことには何の配慮もない。
 各事業できちんと独立採算のとれるような制度にしよう、として報酬改定されるならば、その方向性は基本的に正しいだろう。しかし、たとえば「障害児」に関してみれば、通所・入所施設と療育(実態がどうあれ「児童デイ」)を除いたとき、61事業に含まれる支援はひとつもないのだ。日常的な生活支援を、国の障害福祉は放棄したと言っても過言ではあるまい。
 そんなわけで、赤字事業に関係する収支も含めて調査票に記入した結果、ほとんど法人全体の収支報告書同然になってしまい、こんな調査にほとんど意味はないと思わされるのであった。最後に「従事者への支払い給与」「ホームヘルパーへの支払い給与」も記入させられたけれど、みんな他事業と兼務なので、こんな数字をもって「管理者の平均年収」「ホームヘルパーの平均年収」とかの算出に用いられたら、最悪。でも、どうせ単純な集計しかされないから、そのような最悪な結果になるのだろう。調査をする側に、高齢者の介護保険事業所のようなイメージしかないか、障害福祉サービス事業所を無理矢理にでも介護保険事業所のような経営スタイルへと導きたいかのどちらかである。
 ちなみに保有資格ごとに「有資格者等の手当の状況」も記入させられる。社会福祉士介護福祉士に割増賃金を払ってほしくて仕方がないのだろう(あるいは「有資格者の給与を上げよう、という形でしか報酬を上げる術をもたない、か)。何十回でも言うけれど、介護福祉士資格と知的障害者支援の力量にどのような関係があるのか、ぜひ介護福祉士会あたりに納得のいく回答をしてほしいものである。ここのコメント欄に書き込んでくれてもいいので(公式に議論が行われないのはなぜなのだろう)。