「ボランティアの意味論」を通じて見えてくるもの

「ボランティア」の誕生と終焉 ?〈贈与のパラドックス〉の知識社会学?
- 作者: 仁平典宏
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2011/03/07
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 107回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
一読しただけなので、全容をきれいにまとめられる自信はないけれど、「一方的な贈与」に向けられる批判をボランティアの意味論がどのように回避・解決してきたのか、という問いを立てることで、雑多な「ボランティア」言説を時代ごとの変化として整理できている。理論的にはルーマンからの影響が色濃い。といって、厳密にルーマン理論にこだわった分析を行なおうとしたわけでもない。「コード/プログラム」とか「脱パラドックス化」とか、使いやすいところを使った印象はあるけれど、おかげで自分のような低レベルの社会学好きにはわかりやすい。著者は教育学研究科であったようだし、お師匠さんは歴史研究を得意とする教育社会学者だと思うので、過度に理論社会学的な議論に陥らずに済んでいるように思える(博士論文の一部をかなり圧縮したりしているようなので、元の論文がどんなものなのかはわからないけれど)。
「ボランティア」がタイトルに含まれているので、書店で見かけても多くの人は「関心外」として手に取らないかもしれない。知識社会学とか歴史社会学とか言説分析とか、そのあたりの方法論に興味がある人が中心的な読者になるかもしれない。副題に「知識社会学」と入っているので、書店では社会学の棚に並べられるかもしれない。しかし、これは社会福祉学の研究者に(できれば現場の人々にも)読んでもらいたいと思う。
ボランティアの意味論を追究するにあたって、著者は「贈与」をキーワードに置いた。また、「贈与」が問題化しないための基準として社会の民主化のための要件(国家に対する社会の自律と国家による社会権の保障)を設定して、分析を進めていく。その過程では、もちろん「ボランティア」という言表に注目が集められるが、「贈与」の問題は「社会福祉」や「支援」とも密接であり、時代をさかのぼったとき、とりわけその傾向は顕著にもなる。戦前から戦後しばらくまでの間に出てくるボランティア言説の担い手は「社会福祉学」でおなじみの名前ばかりであり、それぞれの「ボランティア観」とともに「社会福祉観」が垣間見えるものだ。ボランティア言説を通じて、この国の社会福祉言説史も浮かび上がってくることに、他者を「支援」することの本源的な課題が見え、近年「下火」が叫ばれて久しい社会福祉原論研究への方法論的なインプリケーションも得られるだろう。