泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

「介護労働が低賃金」という教科書の問題点

教科書の「介護は低賃金重労働」、修正要望−関連6団体が出版社に
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150713-00000004-cbn-soci
 福祉現場からすれば、教科書でまでネガティブな情報ばかりを流すのは勘弁してほしい(加えて、このニュースをYahooのトップに載せるのも)。
 自分は障害福祉分野だけれど、「低賃金」と言われれば、確かに強く反論できるほどの業界ではないのかもしれない。厚労省による平成25年賃金構造基本統計調査によれば、「社会保険社会福祉、介護」分野(「介護」と「福祉」はやや違うのだが、以下、まとめて福祉職と呼ぶ)の年収は340万円(平均41.2歳)となる。全産業の平均は480万円くらい(平均42.1歳)なので、確かに「組織の規模も分野も問わない平均」と比べれば、低い。
 ただ、福祉職はそんなに特別視されるほどの低賃金なのだろうか。
 大きな社会福祉法人などもあるが、福祉事業所は小さな規模のところが多い。企業規模10〜99人の平均賃金は全産業の平均でも384万円ほどである。福祉分野は女性職員も多いので、同規模の女性の全産業平均賃金を確認すると310万円。同規模の福祉分野の女性の平均賃金は316万円だった(ちなみに男性は372万円)。要するに、小さな法人の給与としては一般的な平均とそんなに変わらないと言える。これで「福祉職は低賃金」とばかり強調されるならば、あまり公平ではないだろう。「小さな会社は低賃金」なのだ。これはもっと強調されていいと思う。
 すると、単に「低賃金」であるのではなく「重労働なのに低賃金」なのが問題なのだ、と言われるだろうか。何をもって重労働と感じるのかはひとりひとり違うので、その点は自分にも簡単には言えない(ちなみにかつて3Kなどと呼ばれた建設業の中から「総合工事業」の10〜99人規模の企業平均を見ると402万円だった)。他人の心身や生活に深く関わることが負担になる人もいれば、定型化された接客やパソコンに長時間向かうような仕事が負担になる人もいるだろう、とは思う。
 いま福祉現場は慢性的な人手不足であり、ずっと求人をかけ続けていても集まってこないような状況が数多くある。これ以上、否定的なイメージを広めてほしくはない。「じゃあ、労働条件をもっと向上させろ」と言うコメントがネット上で溢れているが、金に関していえば、事業者に支払われる給付費を決めているのは国である。それを少しでも下げないでほしいという努力は関係団体みんなやっているが、社会保障費を抑制しようとする動きに歯止めがかからないのはよく知られているはずだ。「3年ごとに制度の見直しがあり、国の意向で介護報酬が一方的に減らされたり、これまで支援を受けられていた人が支援を受けられなくなったりする」と聞けば、安定した労働条件を保ち続けるのがどれほど難しいかを少しは想像してもらえるのではないか。単純に「ブラック企業」といっしょにされては困る。
 自分たちの分野は「介護」というより「障害福祉」だけれど、長く学生スタッフとして活動してきた4回生たちですら、「仕事」となると、ひどいイメージを抱いている(つい先日発覚した)。「子どもを養っていけるのか」とか聞かれたりした。世の中の福祉職はみんな子どもも育てられないぐらいに困窮していると思われているのかもしれない。男子学生には「男性稼ぎ手モデル」もいまだに根強い印象があるし、「一流大学」の学生で非福祉学部だとなおさらイメージできないのだろう。条件面で大企業と争いたいとは思わないが、中小企業と比べてそんなに大きく劣るわけではないことも、業界はデータに基づいて強調していけるとよいのではないか。
 この仕事がどう面白いのか、も書きたかったけれど、今日はここまで。

追記:その後、いくつかツイートしたので、まとめた。これもまた中途半端な内容ではあるが。
http://togetter.com/li/847494