泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

「病気じゃなくて、障害です」に込められた意味は

 なんとなくYahooのトップに障害関係の記事が出ると、何かしらのコメントをつけなければいけないような気がする(自意識過剰)。

自閉症」表現でおわび=テレ朝「Qさま!!
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120516-00000097-jij-soci

 テレビ朝日のクイズバラエティー番組「Qさま!! 」で、自閉症の表現に問題があったとして同局は16日までに、番組ホームページでおわびと訂正を行った。
 同局によると、14日の放送で、先天的な脳の機能障害と考えられている自閉症を、「ここ10年で患者数が増えている病気を選びなさい」という問題の正解の一つにした。同時に使ったイラストも誤ったイメージを与える表現だったという。

 要するに「病気じゃないものを病気と言ってしまってごめんなさい」ということであるらしい。ところが、Yahooでこのニュースを取り上げた複数の記事のコメント欄(いわゆる「ヤフコメ」)を見ると、

>先天的な脳の機能障害

先天性「疾患」て「病気」じゃないの?

確かに難しい判断だが……

病気じゃないと言われると、う〜ん、なんかしっくりいかないなあ……

そういうのひっくるめて病気っていうんだと思ってた。

「症」なんだから病気で正しいと思ってました。
差別はいけないですが、名称に使っている漢字から病気と感じる以上、病気ではないなら名称を変えるのが正しいのでは。

病気より障害の方が中傷度が高いのに何で正確に障害と表現しないといけないのか。

「病気」じゃない事を初めて知りましたが、ただ「障害」って呼ばれる方が嫌じゃないか?と思った。
病気なら風邪も含めて万人がなると思うけど、「障害」ってなると違うよね。
「脳の病気」とか「心の病気」とかそういう呼び方の方が柔らかいと思うけどね。
当事者ていうよりその周りが煩いんだろうなぁ。

 「病気じゃなくて障害」という説明の意味と、そのような区別をすることの意図がわからないという表明が多く見られる(もちろん、そういうものばかり抽出したわけだけれど)。後半は「障害」より「病気」のほうが言葉のイメージがよいのに、なぜあえて「障害」を使うのか、という疑問も出されている。

 記事中で丁寧な説明がないために「先天的ならば『障害』で、そうでなければ『病気』」「病気は治るが、障害は治らない」などと解説を試みるコメントもあるのだけれど、これらもまた「病気」と「障害」の区別に成功していると言えるのだろうか。例えば「難病」は、病気だろうか、障害だろうか。

 精神医学で「診断」に用いられる基準として「DSM」がある。「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の略語。「mental disorders」って、どんな意味なの?と、Wikipediaで「DSM」を調べると、その一行目で期待は裏切られる(参照)。

精神障害の診断と統計の手引き(せいしんしょうがいのしんだんととうけいのてびき、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)は、精神疾患に関するガイドライン

 結局、障害なの? 疾患なの? さらに読み進めると、このDSMに含まれる16個のカテゴリーとして「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」「せん妄、痴呆、健忘性障害、および他の認知障害」「統合失調症および他の精神病性障害」などが挙げられており、いっそうわからなくなる。「先天的かどうか」「治るかどうか」なんて区別で、はっきりした線引きができるものなのか、とも思えてくる。

 にもかかわらず「病気ではなく障害」という理解を促す声が大きいのは、「病気ならば治るのだから、ちゃんと医学的に治療しろ」という世間の声が、「自閉症の人々にとって暮らしやすい環境を用意する」「必要とされる配慮をする」といった社会的努力を放棄させかねない、という危機感を関係者が感じるからに他ならない。当事者はみんな問題を個人に帰せられて苦しんできたのだ。

 その意味では「病気じゃなくて、障害なんだ」というフレーズを繰り返すことで本当に伝えたいことは伝わらない。「治らないものなんだ」と世間に理解されて終わり、ではなく、もう一歩進んで「社会・環境上の配慮によって暮らしやすくなる」ことを知ってもらわなければいけないのだろう。「Qさま」にそこまで考えて謝れというのはなかなか大変そうだが、こうした「誤り」を批判する側にも、批判の意図を伝えられるような工夫が必要なのだろうと思う。

 もう一度、繰り返しておく。「病気じゃなくて、障害である」とは「社会の側が必要な配慮をすることによって、暮らしやすくなる(部分が大きい)」というメッセージだ。それは「あなたにもできる支援があるかもしれない」ということでもある。どうか理解とご配慮をお願いします。