泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

「コンクリートから人へ」で失業率改善?

 努力してきたことの価値を示すのがどうしてこんなに下手なのだろう、という話なのだけれども、政権交代後の「コンクリートから人へ」の成果アピールについて。

コンクリートから人へ、予算構造の大改革で失業率も改善(医療ガバナンス学会)
http://medg.jp/mt/2012/01/vol361.html#more

記事中で鈴木寛民主党政策調査会副会長)氏いわく

 2009年9月の政権交代から早2年、11月に月その成果がまとめられました(※原文ママ)。まず目を引くのが、「主な産業別雇用者数の変化」のうち、「医療、福祉」分野で62万人雇用が増えていること。多くの分野で雇用減が目立つ中、突出した伸び幅(+10.4%)を示しています。
(中略)
 これら「人」に関する産業での雇用増により、製造業などの減を補い雇用者数が増え、失業率を見ても5.3%から4.1%に改善しています。この数字は、アメリカ9.1%、フランス9.1%、イギリス7.9%、ドイツ6.1%といった先進各国に比べても断トツです。
 雇用環境が大きく改善したきっかけは、政権交代で実現した予算構造の大変革があります。それはまさに「コンクリートから人へ」。公共事業関係予算を3割削減し、社会保障関係予算を16%、文教・科学振興予算を6%、それぞれアップさせたのです。

 さて、政権交代後に雇用が62万人増えたのが「突出した伸び幅」と書かれているが、では民主党政権になる前との比較ではどうだろうか。「日本標準産業分類別雇用者数」の統計データ(参照)によれば、「医療、福祉」分野の雇用者数は、2011年11月まで明らかになっているから、政権交代(09年9月)前後の「2年2か月」の幅で見てみよう。

2007年7月 537万人

2009年9月 596万人

2011年11月 653万人

 07年7月から09年9月までの伸び幅は+11.0%、09年9月から11年11月までの伸び率は+9.6%になる。横ばいでさえなく、政権交代前のほうが伸びていることになる。
 「政権交代後の雇用62万人増」が上に書いた数字と合わない。なぜ数字が合わないかというと、実際は政権交代から2年ぴったりである11年9月の数字を用いているからだ。比較の単位を「2年」にすれば、政権交代前の伸び幅は9.1%、政権交代後は記事に書かれた通り10.4%となり、ちょっとだけ伸びた、ということになる。なお「成果をまとめた」という11月時点では9月分が最新データだったはずなので、伸び幅が10%(2ケタ)を超えるところを選んだ作為はないだろう。雇用の伸び幅について、1%や2%の変動に大した意味はない。要するに、政権が変わっても変わらなくても、医療や福祉の雇用は同じようなペースで伸びっぱなし、ということである。
 統計データから因果関係について実証する力量はないが、この程度の伸びを示す程度で失業率の低下をアピールできるのであれば、参照した資料にデータのある2002年4月からの9年7か月で、「医療・福祉分野」の雇用者数は52%も増えているのだから(430万→653万)、ずっと失業率は下がりっぱなしだろう(ちなみに、2002年4月の失業率は5.2%)。失業率の改善は、他業種の雇用情勢によって説明されなければならないのではないか。
 雇用についての実績をアピールしたいのであれば、こんなツッコミを受けないように「介護労働者への『処遇改善交付金』によって賃金アップ」のことをアピールするとか、単なる雇用の「量」ではなく「質(労働条件)」の向上が示せるようなデータを見つけ出して示せばよいのである(そんなデータがあるかどうか知らないし、『処遇改善交付金』も自公政権のときに決まったことだけれど)。どうってことのないデータを不用意にアピールすることによって、かえって「都合のいい数字で国民の目を欺こうとしている」というツッコミどころを自ら生み出してしまうことにもなる。
 自分たちの仕事の成果を示すためにアピールすべきデータがわかっていない、というのは、政治家が責めを負うべき問題なのだろうか。それともその周囲にいる人々の問題なのだろうか。いずれにしても、思慮が浅すぎる。

 政権交代によって実現した多くの事柄は、なかなか報道されないのが実情です。メディアは政局報道には熱心でも政策報道には関心を示しません。しかし、国民の皆様の正しい判断には正確かつ十分な情報が不可欠です。

 記事の最後に書かれたこの言葉をそのままブーメランとして民主党には受け取ってもらい、現場にいる者にもっと「政権交代したから実現できた」と思えるものを実感させていただきたい(当事者参加の政策協議の場を設けてきたことなどは間違いなく画期的だったのだから、ここでの論点はあくまで「雇用」に関してである)。本当に。