泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

おととい本屋で見つけた

ヒューマンサービス調査法を学ぶ人のために

ヒューマンサービス調査法を学ぶ人のために

 なんというか、いい意味でも悪い意味でも独走態勢に入った感じの研究を続けている「広島学派」(なんて呼び方があるかどうかは知らない。いま勝手につけた)。人文科学の知見を踏まえつつ、引用文献はほとんど英語だらけ。一般の社会福祉研究者では全くついていけないはず。たぶん教授クラスでもついていけない人多数。院生なら、博士課程レベルでも1〜2割か。ただ、きちんと勉強していればわかる部分も多いので、あれこれ読んでいることが報われる気がして、個人的には嫌いじゃない。
 書店で「はじめに」を読んで、そのまま棚に戻す院生が続出するのではないだろうか。もはや初学者に向けてわかりやすく書こうという気持ちはどこにも見られず、「わかんない奴はほっておくぞ」という上から目線が強烈である。ページを2枚めくっただけで、こんな調子。

 本書においては、B・ラッセル(B.Russel)の現実構成のタイプ理論に依拠し、現実構成の原子的要素を臨床的概念として再定義し、原子的要素の結合体である上位レベル、分子を出来事として読み替える操作を試み、社会構成主義的トランズアクション理論に依拠した変容論と効果測定論の理論的基礎づけを行なった。言い換えるならば、相対的な硬さを持つミクロなデータを原子的レベルと位置づけ、ポストモダニズムの色合いが強い家族療法の理論的難点の克服を目指したことを、この著作の独創性として挙げておきたい。(7ページ)

 ちなみに、帯によれば「理論性と具体性を重視した新しい視点のヒューマンサービス調査法の入門書である」のだそうだ。出版社も含めて、社会福祉研究者を挑発しようとしているに違いない(「ヒューマンサービス」と言っているので、少しターゲットは違うか)。というか入門書にこれほどの独創性って要るのか? きっと理論的に妥協できなかったのだろうが、社会構成主義についての結構な知識を持っていることが、この本を読む前提となっていそう(これからきちんと読むので、違ったらごめんなさい)。
 ま、ちびちびと読もう。ところで、自分の大学の福祉系学部の偏差値は学内最低レベルにまで落ちてきているらしい。そんな「福祉離れ」と、これから限られていくであろう研究ポスト争いを前に、この水準に耐えうる研究をしようと考える学生は今後出てくるのか。不安だ。