泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

大事なテーマなのに

自閉症の人の死別経験とソーシャルワーク―親なきあとの支援のために―

自閉症の人の死別経験とソーシャルワーク―親なきあとの支援のために―

 基本的にブログでは薦められる本を紹介したいが、影響を考えたときに無視できない本というのもある。
 「自閉症」に関する研究というのは、精神医学、心理学、特別支援教育などに多く、「社会福祉学」を自称するものの中には少ない。書店でも図書館でも「福祉」の棚に行くと、なかなか「自閉症」をテーマとした本は見つからない。だから「福祉」の棚に置かれることになる本は重要である。自閉症の人と関わっている福祉系学部の学生などが、「ちゃんと勉強しよう」と思った時に参照する可能性が高い。
 また、近年の社会福祉研究やソーシャルワーク研究は間違いなくエビデンス重視の傾向にあるから、専門書を買う者としては、「良くも悪くも実証的に丁寧な研究がなされているだろう」という期待をするわけである。研究の対象が絞り込まれていると、なおさら深い洞察がなされているのではないかと想像してしまう。そして、amazonでカートに入れてしまう。
 数週間前に届いて、今日ようやく読了。
 最後まで読むのは、ほとんど苦行であった。開始から20ページでやめようかと思ったが、どこかに大切なことが書いてあるのではないか思って頑張った。しかし、インタビューデータの一部ぐらいしか読むべきところはなかった。それならば、トランスクリプトをそのまま全文掲載してくれればいいわけで、書籍としての意味がない。
 理論的にも方法論的にも最初から最後まで無茶苦茶。「ここがおかしい」とか個別に指摘しようにも、ほとんどのページにわたってツッコミどころばかりなので、とても困る。
 自閉症や障害者福祉制度に対する理解のレベルは、現場の人が読んだら失笑するぐらいに低い。研究者が読めば、論理の飛躍、過度の一般化、根拠のない断定、文献の孫引きなど、何でもありの展開に、学生やマスター院生の論文指導を思い出すのではないだろうか。先行研究レビューの荒さ、M-GTAの使い方、インタビューデータのまとめ方など、研究方法も査読誌であれば掲載される水準には全くなく、すべて調査を終えた後に、研究方法を考えて後付けしたのではないかとさえ思える。質的研究方法について、きちんとした指導を誰からも受けていないのではないか。
 そして、日本語があまりに拙い。接続詞や助詞、指示代名詞などの適切でない使い方がほとんど全ページにわたって山ほどある(まず「つまり」という接続詞の使い方を調べてもらいたい)。難しい言葉を使わなければいけない、という意識がいっそう意味不明っぷりを加速させている。
 このテーマについてインタビューをたくさんとったことの価値を、著者と出版社が全力で薄めてしまっているように思えてならない。もっと調査対象者をうまく増やすことができ、そこで聴かれた内容への意味づけについて自閉症を理解した上で助言してくれる人と質的研究方法について指導してくれる人を確保して、もっと時間をかけてから世に出せばよかっただろうに。いったい何を焦ったのだろうか。
 著者はおそらく現場出身の人(非・障害福祉分野)ではないかと想像する(そうでなかったら、自分の失望はさらに深まる)。そうした人が今の研究動向の中で研究書を単著で出すというのは大変に違いない。それでも、専門書としての水準はクリアしてもらわないと、誰のためにもならない。「准教授」の肩書きは重い。