泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

失敗から伝える〜第1回「理念」だけで集まってよいか〜

 これだけ苦悩しているのだから、これからNPOや福祉事業をはじめようとする人たちへ、失敗から伝えられることがたくさんあるのではないか。一般化はできないだろうが、経験からの教訓として書き遺しておこう。
 まず、理念を同じくするだけでなく、金銭感覚とか労働観とかが同じ人間が集まるのが大事だと伝えたい。NPOのような組織において、理念の重要性は言うまでもない。考えておかねばならないのは、それ以上の部分だ。
 特に、対人援助は理念を追求して進めていくと、しばしば高い専門性を求めていくことになる。当初は「自分たちにできることをやっていこう」でよいが、当事者のニーズに応えていくうちにだんだん「もっと勉強しなければダメだ」という壁にぶつかる。そのとき、これまで組織の中にはいなかった人材を外から招かなければいけないかもしれない。新しい事業のスタートアップ時などは、特に。
 しかし、専門職というのは恵まれた環境で働くことも可能な身分である(ここで言う「専門職」に福祉関係の有資格者は含んでいない)。公的機関や学校、病院などと比べて、福祉NPOが恵まれた労働条件を提示するのは難しいだろう。そこで、目指すものには互いに共感できているのに「その金では働けない」と言われるかもしれない。
 ここで組織内の給与のバランスを崩すことはお勧めしない。ひずみが大きくなる。期間や業務を限定的に定めて、支援のコンサルティング的な役割に徹してもらいながら、スタッフ全体の底上げを図っていったほうがよいと思う。
 高い専門性の人材が少しの間でも全体のイニシアチブをとるような形で従事すると、スタッフも依存的になりやすく、支援を受ける側との信頼関係もその人材を中心に構築されるようになって、お互いに離れられなくなり、ひずみを解消するチャンスも失われる。その人材の責任感があればあるほど、ますます状況は動かせなくなる。
 それだけの人材ならば待遇がよくてもみんな納得するだろう、というのはその通りだが、社会福祉事業の給付費は突出した人件費を特定の個人に払えるような設定になっていない(もちろん事業種別や利用者数にもよるが)。結果として、他スタッフの待遇が低いところで抑えられてしまう。その人材が周囲の待遇をも上げるように求めだすと…、本当に苦しい。
 これは、組織の中で人を育てていく仕組みを作っていくことの大切さを示してもいる。多くの事業を実施しているような組織だと、この各事業間での人材育成の足並みも揃えないと、内部で人を柔軟に動かせなくなるという困難さも生じる。比較的規模の小さい事業をたくさんやっていると、これはどうしてもクリアすべき課題だと思う。また別の回で。