泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

衆院選マニフェスト比較2014(障害者分野)

 当ブログで選挙時恒例になっている「障害者分野限定」マニフェスト比較。なんとなくやらなければいけない責任を感じて、今回もまとめてみました。もちろん景気だって、安全保障だって障害者とは関連するわけで、「障害」という言葉が使われているところを抜き出した範囲での比較であることをご了承ください。
 政党間での比較以上に「過去のマニフェスト」との比較をすると、「いま」障害者が置かれている状況がよく感じられる内容になっていると思います(ついでに言うと、各政党の盛衰も)。なお、過去のマニフェスト比較は以下を参照してください。
参院選2013
衆院選2012
参院選2010

 では、解散前の議席数の順番に。少しだけコメントをつけておきます。

自民党
http://jimin.ncss.nifty.com/2014/political_promise/sen_shu47_important.pdf

<出産・子育てを応援する社会を>
女性・若者・高齢者、障害や難病のある方等、誰もが生きがい・やりがいを持って暮らせるよう、居場所作りや生活支援、ハローワークの機能強化等による就労支援等、全員参加できる社会を目指します。
<持続可能な社会保障制度の確立を>
医師、歯科医師、薬剤師、看護師、介護職員等の人材確保を行うとともに、介護や障害者福祉サービスを担う職員の処遇改善を行い、医療・介護等の充実につなげます。
教育再生の実行とスポーツの振興を>
障害のある子供たちのため、教職員の専門性向上、通級による指導の充実、拡大教科書等の普及・充実、学校施設のバリアフリー化等の必要な教育条件を整備します。

 なぜか「出産・子育て応援」の中に含まれてしまいました。書いていることは総論的なので特筆すべきものがありません。前回選挙では「障害者差別解消法の推進」など書かれていましたが、それも無くなりました。成立から時間が経ったとはいえ、まだ施行前なんですけれど…。
 教育関連の記述は前回選挙で完全に無くなったのですが、復活のようです(ちなみに、2012年衆院選時はけっこうなボリュームでした)。(※12/1追記:福祉職の処遇改善について書いてあった部分を見落としていたので、付け加えました。過去数回の選挙で自民党が公約にしたことはなかった論点と思います)。
 ちなみに「子供」と表記しているのは、現文部科学大臣の意向が反映されたものと言えましょう。教育分野だけだろうかと思いきや、他もすべて「子供」になっていました。唯一「子ども・子育て支援制度」だけは「子ども」表記になっており、違和感があります。これからどうする気なのでしょうか。

民主党
http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2014.pdf

02 社会保障
介護
●介護・福祉現場での人材確保のため、民主党が提唱して成立させた介護職員・障害福祉従事者の処遇改善法に基づき、介護報酬、障害福祉報酬をプラス改定し、介護職員・障害福祉従事者の賃金を引上げます。
05 女性・共生
障がい者
●障害種別や程度、年齢、性別を問わず、難病患者も含めて、安心して地域で自立した生活ができるよう基盤整備、人材育成に取り組みます。
●障がいのある人もない人も共に生きる共生社会を実現するため、障害者差別解消法の実効性のある運用をめざします。

 福祉従事者の処遇改善を強調してきたのは、特徴的であるかもしれません。与党時代のマニフェストはかなり無難なものだったので、ここだけは野党らしくなってきた気がします。その他の部分については、ほぼ前回選挙と同じで、具体的な記述は少ないです。サイトには音声版あり。

維新の党
https://ishinnotoh.jp/election/shugiin/201412/pdf/manifest.pdf

10 先送りにNO! 社会保障制度改革
●障害者を納税者に。就労支援を促進する。

 なんと、過去の公約ですべて「言及なし」だった維新の公約に「障害者」という言葉がはじめて登場しました! それが「障害者を納税者に」であるというのは、期待を裏切りません。能力ばんざい。労働ばんざい。

公明党
http://www.komei.or.jp/campaign/shuin2014/manifesto/manifesto2014.pdf

4 障がい者福祉の拡充とセーフティネット機能の強化
(1)障がい者福祉の充実
障害者総合支援法が施行され、制度の谷間のない支援を提供する新たな障がい保健福祉施策がはじまっていることを受け、市区町村の現場において障がい者等へのきめ細かな支援を強化します。2020年東京パラリンピックの成功に向けて、ソフト面や心のバリアフリー化を進めるとともに、視覚や聴覚等に障がいのある人にとって、日常生活のコミュニケーションや情報収集をするための「情報・コミュニケーション法(手話言語法)」の制定をめざします。
(2)生活困窮者など支援が必要な方への取り組み
高齢者や障がい者などの司法アクセス困難者に対する法的サービス提供を充実させるとともに、成年後見制度の普及を促進するため、法テラス等における弁護士と福祉機関・自治体・市民団体等が連携し問題解決を図る「司法ソーシャルワーク」の取り組みを抜本的に強化します。
5 安心で質の高い教育へ
(4)障がいのる子どもへの支援
障がいのある子どもが十分な教育を受けることができるよう、特別支援学校の教室不足の解消やバリアフリー化などの整備を進めるとともに、特別支援教育コーディネーターの配置拡充や専門性の向上、特別支援教育に対応する教職員等の資質向上を図るなど、特別支援教育の一層の充実に取り組みます。
また、発達障がい児等の教育機会を確保するため、発達障害支援アドバイザーの配置拡充を進めるなど、必要な教育環境の整備に向けた支援を拡充します。

 公明党は過去のマニフェストで「アニマルセラピー」を推したり、高校への特別支援学級設置を訴えるなど個性が強く見られやすいのですが、今回も同様です。「手話言語法」「司法ソーシャルワーク」を盛り込んできました。前回選挙以降で特に施策が変わっていないのに消えてしまった公約もあるので(障害基礎年金の加算や教科書のバリアフリー化など)、こうした新たな公約が加えられることに「マイブーム」的なムードも感じられなくはないです。
 障害者総合支援法については「谷間が無い支援を提供する」という認識で、あとは市区町村の努力次第である、といったところでしょうか。「特別支援教育」「発達障害」への記述が多いのも、いつも通りです。

次世代の党
http://www.jisedai.jp/news/20141122.html

(言及なし)

 まあ、当然かと。

共産党
http://www.jcp.or.jp/web_policy/html/2014-sousenkyo.html

※内容が非常に多いので、以下のリンク先をご覧ください。
25 障害者・障害児
http://www.jcp.or.jp/web_policy/2014/11/post-673.html
32 教育
http://www.jcp.or.jp/web_policy/2014/11/post-658.html

 いつものごとく引用できないほどのボリューム。現行の「総合支援法」については完全否定です。関係者にはよく知られたことですが、民主党が与党であったときに「自立支援法」を改めようと当事者の意見をたくさん聞いて新法への「骨格提言」というものを作りました。しかし、それは完全に無視されて、ほとんど違いのない「総合支援法」ができて、今に至ります。そんなものは認めてない、ということです。
 「一割負担でなく、無料」「食費の自己負担も無しに」「報酬は日額払いでなく月額払い」「地域生活支援事業は、国事業に」「相談支援もグループホームも報酬アップ」「障害基礎年金引き上げ」「自立支援医療をすべて無料に」「法定雇用率引き上げ」「介護保険の優先原則を廃止」…、きりがないのでこのへんにしておきます。もしこれらがすべて可能ならば、障害関係者にとってはバラ色の未来が待っているわけで、もはや投票先は一択でしょう。財源は「消費税増税でなく大企業や富裕層の負担」だそうです…。
 障害福祉の中でもかなりマイナーな論点を含んでいたりするので、地域でさまざまな関係者からよく話を聞いていることはよくわかります。

生活の党
http://www.seikatsu1.jp/wp-content/uploads/0c4778a35f0cfe0a34fd3085e210a5c4.pdf

(言及なし)

 前回選挙では当事者の意見にそって「総合支援法」を見直すことを書いていたのですが、記述が完全に無くなりました。

社民党
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2014/commitment.htm

約束1(4)安心の社会保障の充実を
〔共生社会〕
○障害者権利条約の趣旨をあらゆる場面で実現します。「障害者差別解消法」の実効性を高め、障がい者の地域生活を広げ、共生社会を実現します。
○「手話言語法」、「情報・コミュニケーション法」を制定します。

 過去3回のマニフェストと比べて、記述が激減しました。あんなに書いていた多くの課題はどこへ行ってしまったのでしょう…。そんな中で、公明党と並んで「手話言語法」が入っています。このあたりの状況は、主に知的・発達障害と関わっている自分にはよくわからない部分。少し調べてみたらこの数年でかなり運動が展開されているようで(参照)、関係者にとってはようやく選挙公約に盛り込まれるところまで行きついた、という状況なのかもしれません。

 全体に言えることですが、「差別解消法」の成立と「権利条約」の批准があったために、政治としての具体的目標や争点を失ったかのように見えます。現存する問題をわかっていなくても「差別解消法を推進します」と言っておけば済むと思っているように見えてしまうのですが、これから選挙のたびに多くの政党がこのような書き方をしていくのでしょうか。もちろん言及が全くないなど相変わらず「やる気がない」党はわかります。しかし、本当に知りたいのは「やる気がある」党です。その意味で、障害者福祉にとっては残念なマニフェストが増えた、というのがまとめてみた印象でした。
 何をどう評価するにしても、選挙には行きましょう。