泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

支援はデマンドに寄り添うことから

 某所で安井(大友)愛美さんのお話をお聞きしてきた。はるばる北海道から来てくださっての5回連続講座。テキストは以前にも紹介した本である。最後は、短い時間だが、トークセッションのようなことまでさせていただけた。主催者には、ただ感謝の言葉しかない。
 やはりすごい人だった。何の制度にも支えられずに障害児者の支援をはじめた実践は、相手との関係、社会との関係、自分との向き合い方、すべてをいつも省みながら調整してきておられた。その結果としてたどりついた地点は、ソーシャルワークの教科書に書かれていることであったり、社会哲学としては素朴なことであったのかもしれない。大学でも勉強できることだ。しかし、そこに「経験」から改めてたどりつけるのは容易なことではない。
 経験豊かな人間はどこにでもたくさんいるのである。現場で何十年と支援経験を積み重ねている者を見つけるのは簡単だ。にもかかわらず、そのすべてが優れた支援者と呼べるわけではない。とりわけソーシャルワーカーにおいては。なぜだろうか。
 「経験と勘」に頼った支援をいくら重ねてもダメだから? それだけでは答えにならないと思う。ソーシャルワークにおいて、「エビデンス」が明らかになっている部分なんてたかが知れているし、誰かが明らかにしようとしないものはいつまでたっても明らかにはならない。相談を含むような支援で、目の前の「この人」にどんな支援が有効か、を「過去の研究」からどの程度まで具体的に導きだせるだろうか。TEACCHやABAをソーシャルワークと結びつけることもできるだろうが、効果が実証された方法論を大事にしているからといって、相手をまるごと支えて元気づけていけるような支援ができるとも限らない。支援者が学ばなければいけないことはもっとたくさんある。
 社会福祉学を大学等で専門に勉強しないまま、現場で仕事を始めてしまっている人が多いから? もちろん支援の根底に置かなければいけないような価値観や知識をあらかじめ知っておくのは大事だ。それでも、ときに大事なものを忘れさせていくのも歪めていくのも現場である。「理想は理想」と言って、すれっからしの支援者へと堕すのは容易い。「学者の理論である」と教科書に書かれた内容を一蹴して、現場のプライドへと変えようとする者だってたくさんいる。
 これはあくまで個人的なまとめ方だれど、やはり彼女は「制度」に乗らないから考えてこられたことがものすごく豊かにあったのだ、と結論付けてもよいのではないかと思う(それ以前に、大学で勉強したり入所施設で働いた中ではぐくまれた強い問題意識があったことももちろん大きい)。「どう支えられてよいのかわからない」者と「どう支えてよいのかあらかじめの答えをもたない」者が出会い、「本当に必要な支援(の受け方)とはどんなものか」をずっと互いに問い直す、という関係性は、現行の制度ではますます難しくなりつつある。「制度」は他者との関係も社会との関係も自分との向き合い方もみんな規定してしまうのだ。
 彼女が経験からたどりついた一つの主張が「デマンドに寄り添うことからはじめないと、ニーズは見えてこない」だった。今ではデマンドとニーズを区別することがアセスメントの役割であるかのようになりつつある。いや、それは確かにアセスメントの役割であるのかもしれないが、もしそうだとしたら必要なのは「アセスメント以前」の支援であり、関わりであるのかもしれない。しかし、相談支援事業所による「サービス利用計画」からはじまる障害者支援にそれができるだろうか。
 目に見えず、効果が表れるのも遅い支援は評価されず、ペイされない。そのことへの悔しさを自分たちはどちらに向けていけばよいのか。きちんとペイされる制度を目指すのか、ペイされれば理想的にはできなくなると無骨にこれまでのやり方を貫き通すのか。それは安井さんにとっても自分にとっても今後の大きなテーマである(先日の障害学会でも「制度」と「関係性」が大きな論点になっていたとも聞くし、同じような問題意識をもった人は他にもいるだろう)。
 長年の実践の過程で自らを省みられて考え方が変わったところもある方である。が、十数年前も今も同じように自分が共感できたのは、ぶれないところは全くぶれていない方であるし、長く子どもたちと関わってきた中での経験に自分とも重なるところが多かったからだろうか。障害の「社会モデル」的な考え方にもかなりのばらつきが感じられる中で、こんなに立ち位置が同じだと思える人にこれから出会える気がしない。
 現場の人に「ソーシャルワーク」をやさしく語らせたら、たぶん右に出る人はいないと思えるほどに言葉の選び方が見事だった。けれど、あまりそのような依頼はないらしい。障害者支援業界に見る目が無いのか…。