泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

マクドナルドさん、メニュー表を無くさないでください

 かなりの数の関連ツイートがあるようなので、togetterでまとめられたらよかったのだけれど、はじめてで扱い方がよくわからなかったのであきらめて自分の言葉で書く。

McDonalds_infor
【本日から】レジの所のメニュー表がなくなります.入口においてあるメニュー表や,レジ上部にあるメニューをご覧になり,ご注文をお決めになってから,カウンターにお進み頂ければと思います.最初は戸惑う事もあるとは思いますが,どうぞご協力よろしくお願い致します.
2012.10.01 07:01 twitter
https://twitter.com/McDonalds_infor/status/252528620839505920

 公式アカウントからのツイートではないようだ。しかし、どうやら関係者からの発信ではあるようだし、既に「今日マクドナルドに行ったら、確かに無かった」という声がたくさん聞かれるので本当なのだろう。
 ツイッター上では「レジ横のメニューがなくなると注文しづらい」という反応であふれている。今日、マクドナルドの店舗を見に行ったわけではないが、もし単純にレジのメニュー表を無くしただけなのであれば、顧客はメニューの大部分を確認できないのではないだろうか。レジ上部には特定のメニューしか書かれていなかったはずだし、「入口にあるメニュー表(たぶん立て看板みたいなやつのこと)」も目立たない店が多い(だから、レジ前ではじめてメニューを見て、即座に注文しなければいけないため、コミュニケーションや決断力に自信がない人たちにとっては、「けっこうマクドナルドって注文難しい」という印象もあったと思う。それもそれであまり親切とは思えなかった)。
 「手元のメニューで考えさせない」というのは、おそらく経営的にメリットがあるという判断なのだろうが、障害児支援をやっている者にとってみれば、もう「来るな」と言われているのに等しい。視覚障害言語障害がある方にとっての困難さは容易に想像される。見えないものは選べないし、指差せないものは伝えようがない。外国人の方も困るだろう。
 自分が主に支援しているのは知的障害や発達障害をもつ子どもたちである。言葉を話せない子どもも多い。多くの子どもはメニューの「写真」を指す。セットメニューを頼むときだって、個別の商品をひとつずつ写真を指す。もちろん支援者がついているし、店員に伝わりやすいようにそれを言葉でフォローしたりもするのだが、子どもにとっては「自分が食べたいものを主張した」と信じられる貴重な手段である。たとえ本人が好きなものを保護者がよくわかっており、注文するようにヘルパーが頼まれていたとしても、何の選択もさせずにヘルパーが勝手に口頭で注文したら、子どもは何を頼まれたのかわからず、商品が出てくるまで不安になるだろう。入口にあるメニュー表でいっしょに選べたとしたって、選んだものを入口からレジまでの間で忘れないとも限らない子どもたちである。
 まさかマクドナルド関係者が知らないはずはないと思うが、いちおう書いておく。知的障害や発達障害の子どもたちはマクドナルドの「超お得意さま」である。調査したわけではないが「外食と言えばかなりの割合でマクドナルド」という自閉症児はかなり多い。うちのヘルパーは1週間に何度もマクドナルドに行くし、数日にわたって通う羽目になることもよくある。全国的にも同じ傾向があるのではないだろうか。特にマクドナルドの店舗が多い地域ならば。
 これは「子どもはみんなマクドナルドが好き」の延長ではなく、特性ゆえに「マクドナルドぐらいしか食べられない」という事情による。広範囲に渡って出店されていて外出先でも見つけやすく、あのシンボリックな「M」のマークが子どもにもわかりやすく、どこに行っても同じ味のものが食べられる、というのは、味覚的に食べられるものが限られる子どもたち、食べたことがないものへの不安が人一倍大きい子どもたちからの絶大な支持へとつながる(昼食にもおやつにも活用しやすい、というのも大きい)。
 それゆえ、知的障害や発達障害をもつ子どもたちにとってマクドナルドは「自分で食べたいものを注文して、購入して、食べる」という貴重な経験を積む場所ともなりやすい。
 レジ前で並んで動き回らずに順番を待つこと、レジ前に来たら食べたいものを店員に伝えること、財布を出して足りるだけのお金を払っておつりを受け取ること、横にずれて商品を待つこと、番号札と商品が交換になる場合もあると知ること、食べ終えたらゴミだけを捨てて(ときには分別もして)トレイは返却すること…。これらの手順もさらに細かい行動に分かれていくから、簡単にはマスターできない。何度も何度も繰り返すうちに、少しずつやり方を覚えていく(ちなみに自分が最近苦戦していたのは、「お腹いっぱいのときはフライドポテトを無理して食べきらなくてもいい」ということを子どもにわかってもらうことだった)。多くの親や支援者は、子どもがマクドナルドばかり行くことに様々な思いを抱きつつも、通い詰める中で得られるかもしれない自信とスキルに期待もかけている(もちろん単純にマクドナルド食べてうまい、だけでも全くよい)。
 たくさんの文字と写真が並ぶメニューでは的確に情報を選び取れない子だっているし、カード状にした写真を使ってコミュニケーションをとれる子もいるから、これまでだって自前でメニューを用意していた支援者や親はたくさんいるだろう。それでも、店の側で少しでも使い勝手のよいものを準備するのが、日本中に店舗を展開する企業の姿勢であってほしいと思うし、バリアフリーに例えれば「平らだったところにわざわざ段差を作る」ようなもので、これまでできていたことをわざわざ後退させる必要はないと思うのだが、どうでしょうか、マクドナルドさん。
 回転率を上げたいだけなら、レジ以外の場所にもしっかりとメニューを確認できるところを併せて作りさえすれば、多くのお客さんは並んでいる間に考えて注文すると思うのだけれど。なぜ「両方」できないのかが不明。