泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

たしかに利用者負担は増えた、けれど

「軽率」では済まされないことを言った阿久根市長にはしっかり反省していただきたい。きついお灸がすえられるといいのだけれど。
 それはさておき、厚生労働政務官が数日前のメルマガで

また、自立支援法の実態調査が長妻大臣の指示のもと、行われました。
低所得者に負担増が激しいことが明らかになりました。
詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。
この実態調査は過去、野党時代に何度も要望しましたが、前政権は拒否。
政権交代でやっと調査が実現しました。
この結果を受けて、低所得者の負担軽減を財務省と交渉します。
厚い壁ですが、頑張ります。

と書いていたので、読んでみた。

障害者自立支援法の施行前後における利用者の負担等に係る実態調査結果について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002sre.html

リンク先は概要だが、「報道発表資料全文」もPDFで読めるようになっている。

いくつか気になる点がある。某関係者(お子さんがインフルエンザ感染のため強制的に休暇中)からの意見も集約しつつ、まとめてみる。

1.サンプルが都市部に偏っているのはなぜだろう。
 札幌市、仙台市千葉市川崎市金沢市の協力を得て、一定の条件を満たした者を抽出したとされている。
 都市部でないと訪問系サービスの利用が少なくて、現政権が主張したいことを示してくれるサンプルがうまく集められないんじゃないだろうか(単に厚労省職員が出向していて、データを集めやすかった、という可能性もある)。訪問系サービスの支給決定の格差が激しいこと自体が問題だけれど、これらのサンプルがどのぐらいの時間数のサービス利用をしているのか、がこの資料からはわからないのはもっと問題だと思う。日中活動系は毎日利用が多いけれど、訪問系は一口に「訪問」とくくっても、障害種別、サービス内容、利用時間などによってずいぶん負担の増加額は違ってくるだろう。それをまとめて「訪問系」で平均とっても有意義なデータが得られない。あまりに単純すぎる。
 それから自治体独自の減免制度がけっこうあると思うのだけれど、この5都市(道県)はみんな無いのだろうか。けっこうな大都市ばかりなのに。減免前のデータ?

2.障害種別やサービス種別によって全然状況が違うように思える。
 これもサービス種別をすべてひっくるめた平均なので、あまり正確な議論は期待できないけれど、知的障害者の利用者負担額は平均6033円増加だそうである。増加している者の平均増加額は6962円。
 ずいぶん上がっていると思われるかもしれないが、自立支援法になるまでは施設に関して「食事代」の負担がほとんどなかったのである。知的の「訪問系」のサンプルは少ないようなので、この平均は通所や入所の負担額が大きく反映されているはずだ。毎日の食事代が自己負担になったことを考えれば、「平均では」それほど上がったとは言い難い。昼食代であったとしてもそれまで支払わなくてよかったものが負担を求められることになったのが問題だ」と言われる可能性はあるが、利用者負担の問題は所得保障の問題として考えるべきところもあるだろう。どこかに通所している人のみが食事代を面倒見てもらえている、という状況は奇妙だと思うし。負担が無かったのは「食育」の観点からだった、という噂も聞いているけれど、通所や入所で毎日「食育」しているはずもない。光熱費をとるのは変だと思うけれど。
 これに比して、身体障害のほうは自分にとってわかりにくい数字が並んでいる。身体障害者の増加額別の分布で最も多いのは「20001円以上の増加」になっている(20.7%)。しかし、参考資料として掲載されている「障害福祉サービスに係る利用者負担の比較」を見ると、支援費制度と障害者自立支援法(緊急措置後)で20000円以上の増加がありうるのは所得階層が「一般」かつ入所施設を利用している人のみである(所得のかなり高いところが、資料で試算に使われている150時間よりもっと長い時間のホームヘルプを使っても、増加額が20000円超える?)。しかし、身体障害者で「一般」のサンプル数は合計でも110で、20%には全く及ばない。
 そして、次に多いのは「2001円〜4000円増」である。この増加額にあてはまるのは資料の中だと低所得2の「ホームヘルプ150時間」と一般(年収約800万)の「通所」のみ(ただしこれは「知的障害者通所授産」での計算ではある)。他の通所や入所の例だと、それ以上か以下の増加額になっている。もちろんこれは単純化された資料なので、実際の生活ではいろいろとサービスを組み合わせたりもしているだろうが、毎日通所していれば低所得でも4000円の増加では済まないし、入所ならば2000円以上は増えない数字になる。
 そんなわけで、身体障害者福祉に明るくない自分には、なぜこの二つの増加額に集まっているのかがわからない(まあ3位以下書かれてないんだけれど)。どなたかうまく説明できる方はおられるだろうか。「仮説」として聞いた話では、「20000円以上」について「支援費時代は非課税で自己負担なし、の人が、自立支援法になって資産要件(貯蓄や不動産を本人名義でもっている)にひっかかったのでは?」。「2000〜4000円」については、「1.通所の利用日数が少ないケースがあるのでは?」「2.支援費時代は通所送迎費を払っていたが、自立支援法になって「通所サービス利用促進事業」の活用で送迎費の支払いがなくなり、食費等の負担は大きく増えたものの、トータルでは2000〜4000円程度の増におさまったのではないか?」。
 でも、送迎費用についてはこのデータに含まれているのかいないのかわからない。「サービス利用にかかる一部負担額と食費・光熱水費」となっているので、含まれていないと考えるほうが自然のように思う。送迎費用は一ヶ月にするとけっこう大きいだけに、その増減を無視する理由がわからない(含めると、負担増の幅は変わるはず)。
 ともあれ、サンプル数を見ても、身体障害と知的障害のサービス種類にはずいぶんばらつきがあり(身体は訪問、日中活動、入所がそれぞれ288、167、239。知的は、80、434、415)、障害種別を無視しても、サービス種別を無視しても、まともな議論にはならないということは言えるように思う。一方で、障害を「重複」している人は、どうカウントされているのだろうか、という問題も…。

3.地域生活支援事業の負担は全く無視されている。
 国事業とは別に市町村事業として利用者負担とかを設定しているサービスがあるのに、そこは結局データが出てこない。このデータを集めるのはとんでもなく難しいと思うけれど、それでもやってもらわないと。ガイドヘルプ、日中一時など所得に関係なくすべてタダ」とかでやっている自治体も知っている(爆発的に利用が伸びるばかりで、自治体は後悔しているらしいが)。「新法でもう一度『国事業』に」とか本気で考えているなら、この調査を本気でやらなければ。

4.「児童」はこれじゃ何もわからない。
 今回の調査の「障害児」サンプル数はたったの204。うち訪問系が117だけれど、これは地域によってはひとりもいないだろう(少なくとも地元自治体にはひとりもいない)。居宅介護も行動援護も支給決定されない。もちろん、それらの支援を必要とする子どもたちの状況を知る重要なデータではある。が、幅広く「障害児」の負担を見たいならば、前述の地域生活支援事業も含めないと、かなり偏ってしまう。含めて「平均」をとれば、実負担額の増加している者の割合が52.9%という数字は(地域ごとに)大きく変わってくるのではないだろうか。
 障害児の「日中活動系」って、児童デイ? 就学前の療育ならば、3年前との金額を比較できる子どもは抽出が難しいんじゃないだろうか(ずっと学齢児まで含めていた事業所がある地域は別だけれど)。比較すらままならない児童。嗚呼。

5.「精神」はどこへ行った?
 何か都合の悪いことでもあるのだろうか。サンプル数が得にくいのか、18年度はまだ違う枠組みの中でやっていたからか。それでも「負担」の比較はできる気がするが。

6.「ケアホーム」「グループホーム」「短期入所」もどこへ行った?
 何か都合の悪いことでもあるのだろうか。前述の某関係者の法人だと負担総額は7.5万以上というから、けっこうな金額だと思うけれど。家賃などにばらつきがあってデータがとりにくいというなら、それはそれで問題が大きいはず。「短期入所」は、3年前との比較を目的とした調査では扱いにくいと思うけれど、知的障害の場合、けっこう通所系のサービスと組み合わせていることも多いので、やっぱりこのへんの話はもっと個別事例をたくさんあげて考えないとリアリティがない。「訪問だけしか使っていない」人を抽出するよりも、「通所だけしか使っていない」人を抽出するのはかなり難しいんじゃないだろうか。

7.工賃と実負担額の差額平均は、日中活動系と入所系で著しく離れているように見えるが、ある意味では離れていない。
「入所施設」の事情がよくわからないのだが、日中活動系は平成18年も21年も工賃のほうが負担を上回っている(「平均」では、18年が15706円で、21年が8996円)。食費・光熱水費を除くと、21年の差額平均は14066円だというから、ほとんど違いがなくなる。
 一方で、入所は18年時点でマイナス24961円だったものが、21年にはマイナス37570円。全体の99.1%がマイナスだという。ところが、食費光熱水費を除くと、差額平均が5301円と一気にプラスに転じる!
 そして、平成21年7月において、「実負担額」のうち食費・水光熱費を除いた額が工賃を上回る利用者の割合は全体の12.6%。いわば「働くために金を払っている」人が12.6%ということになるだろうか。調査は「実負担額が工賃を上回る状況が拡大」とまとめているが、そのような状況を作った大きな要因は、通所サービスや入所の利用者から食費と水光熱費の徴収をはじめたこと?

 全体を通して言えることは、「サービス」に焦点を当てて、負担の部分だけを取り出して議論しようとしても、全くリアリティがない。もっと個別の利用事例をたくさん積み上げる形で現況を示さないと、「負担ってそれほど上がってないんじゃないの」と言われても仕方がない。世間は誰もこんな資料を読み込まないだろうから、まあよく言われる「納税者の合意」は得られるかもしれないけれど。
 これ見て、財務省はどう理解するのだろう。理解できるのだろうか。「細かいことはどうあれ、○百億ぐらいで済むなら軽減してもOK、みたいなノリなんだろうか。わからん。