泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

対象論

 年始のとみたさんの更新がとても活発になっていて、システム論の話とか「市場の中で企業と競争しないNPO」の話とか、魅力的なテーマが並んでいる。そして、昨日は社会福祉研究にとって古くて新しい問題提起が。
社会福祉とは???
http://totutotu.seesaa.net/article/76875409.html
 対象論研究は、ほとんど停止状態のように思う(もちろん「全く無い」とは言わない)。岡村、孝橋のような冠理論も流行らなくなった。大学院等でこれらの古典を読まされることはあっても、研究テーマとして取り組む者は希少な存在だ。何せ時代は「科学化」であり、そのための「実証研究」である。多くの院生は、調査をしなければならない強迫観念に駆られている。そして、とにかく研究方法(調査技法)をマスターせねばと思っている。修士論文の発表など聞いていると、理論的な分析のない調査報告がとにかく多い。社会福祉とは何か、について考えるよりも、目の前の課題をどうやって解決するか、を大事にしたいのだろう。しかし、じゃあ「目の前の課題」って何で、「解決」って何だ、ということはほとんど議論されない。
 理論史的に見れば、「貨幣的ニーズ」と「非貨幣的ニーズ」という悪名高き区別が提案されて、貧困の問題が相対化されたことももちろんだけれど、大きく二手に分かれていた対象理解を古川孝順が折衷的にまとめたあたりから、「この議論をこれ以上やってもしょうがない」という雰囲気になったんじゃないだろうかという感じがする。そして、実践だけでなく研究もまた制度・政策の潮流を前提として為されるようになった。その潮流に抗いたいと思う者は、「社会福祉」の研究というより「社会福祉政策」の研究に向かう。そして、研究者が「政策研究」と「技術研究」に分断された末、「ソーシャルワーク」は介護保険的なケアマネジメントやポストモダン的なアプローチに集約されていったのではないか(地域福祉論で「地域福祉計画の策定」に大きな期待が寄せられる一因には、こうした流れへの危惧もあるのだろう。それが上手くいっているのかどうかはよく知らない)。
 介護保険制度のスタートは功罪ともにあったと皆が認めるところだろうが、「要介護」に注目が集まる一方で、「要介護」から派生する問題や「要介護」へと結びついていく問題は、何か「特別な」ニーズであるかのようだ(誤解を招きたくないが、「介護予防」の話をしているのではない)。それは障害者福祉でも児童福祉でも同じ。「貧困」の相対化を超えて「ケア」の相対化を図ることができれば、もう少しは対象論も盛り上がるんじゃないだろうか。対象の「分類」を横断的に捉えることのできる枠組みも必要だ(このあたりは、学会レベルでちょっとだけ活性化している感もあるが、その背景には野宿者とか引きこもりとか在日外国人とか、従来の「高齢・障害・児童」に収まらない要支援者が増えてきて、それを「社会福祉の対象」へと引き込みたいという業界の思惑も見える)。
 ・・・などと書いていたら、文部科学省がスクールソーシャルワーカーの配置に予算をつけるとか。「今の世の中でソーシャルワークが必要なのは誰か」と問うてみるのもよいかもしれない。
学校にソーシャルワーカー 家庭問題抱える子に対応
http://sankei.jp.msn.com/life/education/080106/edc0801061921002-n1.htm

 虐待や育児放棄、経済的な困窮など深刻な問題を抱える家庭の保護者や子供に対し、専門的な見地で対応をするため、文部科学省は6日までに、平成20年度から公立小中学校で活動する「スクールソーシャルワーカー」を、全都道府県計141地域に配置することを決めた。
 不登校やいじめ、暴力行為など子供の問題行動には家庭環境が影響しているケースも多く、教員だけでは十分対応できない状況も増えている。恒常的に専門家の協力を得られる仕組みを整えることで、家庭状況に合った対応を可能にすると同時に、教員の負担を軽減する狙いもある。
 スクールソーシャルワーカーの主な役割は学校と関係機関との仲介。深刻な問題を抱えた保護者や子供の実態を把握した上で、個々の状況に応じ福祉施設や警察、ボランティア団体などに協力を要請する。生活保護や就学援助の申請手続きを助言することなども想定している。
 配置するのは原則として各都道府県に3地域ずつだが、現段階では未定で今後、選定作業を進める。活動の範囲については、市町村単位、学校区単位などを各自治体が決める。人材は社会福祉士臨床心理士など専門的な知識を持つ人のほか、行政制度に詳しい人や保護者や子供の相談活動を経験した人たちからも求める考えだ。
 こうした制度を先行導入している自治体もある。大阪府教育委員会は17年度から7人が週3日、府内7市の小学校で活動している。児童生徒支援課の中野澄指導主事(46)は「学校や地域とつながりを持とうとしない保護者も、専門家が間に入ることで問題をどう解決していくか話し合うことができるようになる」と効果を語る。
 20年度の予算折衝過程で財務省から提案があり、約15億円を計上するという異例の経緯で実現した。文科省の幹部は「子供たちのために学校を支えようという気持ちを持ってくれる人が1人でも多く出てきてほしい」としている。

 それにしても、子ども関係は厚生労働省文部科学省の役割分担がもはや全然わからない。どこからでも金がつくなら、それでOKと楽観的に思ってよいのだろうか。地方自治体レベルで教育委員会と福祉関係課の距離って、ずいぶん大きいと思うので、すごく現場は仕事がやりにくいのではないかと思えてならない。