泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

[障害者支援]負担、合意、新単価

 アメニティフォーラム初日。
 この時期に厚生労働省の人間がこれだけ出てきているというのは驚異的なことだと思うのだが、全国ネット主催のイベントらしく、厳しい攻撃はあまり見られず、パネリストの多くは大枠として自立支援法を受け入れつつ、あくまで穏やかに問題点を指摘していく。
 細かい論点について書き出したらきりがないのだが、どうも気になるのは「経済的に苦しんでいる人はたくさんいるのだから、障害者だけ負担したくないというのは許されない」という主張が数多く見られることである(そういうパネリストをあえて集めているのだとは思うけれど)。これは注意を促しておかねばならない。会場では、メインストリーム協会の玉木氏をはじめとする他のパネリストが適切に反論していたのでよいのだが、今日配布された全国ネットの機関紙「PIECE」5号でも毎日新聞野沢和弘氏がこんな話を紹介している。

 自治体レベルでは受益者負担の嵐が吹き荒れています。高校の授業料負担も増えています。昨年秋、私が勤めている毎日新聞では『シリーズ負担』というコーナーで自治体の受益者負担の実態について調査しました。高校の授業料が増えているのは33自治体くらいあり、受益者負担の波は生活保護世帯も直撃しています。ただでさえ最低限度の生活保護しかもらっていないのに、そこにもメスが入れられようとしています。
 今、リストラや倒産等で、日本の生活保護世帯が100万世帯を突破しました。年間の自殺者を突破しました。年間の自殺者が約3万人です。進学をあきらめている子どもが続出しています。その生活保護世帯の方の実態を報道しました。
 7万円の生活保護で生活しているおばあちゃんの話です。7万円から光熱費や部屋代など払っていくと、ほんの少ししか残らず、お米は親類からもらって食いつないでいる状態です。洋服なんて6年も買っていない。ここでさらに、市から生活保護を削ろうという話が打ち出してきたので、おばあちゃんは「これでは生きていけない」と嘆いているのです。これが、新聞に出たところ、読者から反響が殺到しました。「これは許せない!」「何とか生活保護を守ろう!」というような反響だと思ったら、そうではないのです。
 8割は否定的意見で「みんな大変な思いをしているんだ。7万円ももらって、文句言うんじゃない」というような内容でした。これには驚きました。中には、「自分は3万円で食いつなげる。生活できなければ、家族同士で協力して助け合うのは当たり前じゃないか」「洋服を買えないなんて、何を言っているんだ。ユニクロに行けば1000円で何でも買える」。そんな意見がありました。
 次は障害者に対する負担の問題を記事に出そうと思ったのですが、障害者がいくら年金をもらっているのかなどということは書けなくなりました。

 「もっと悲惨なところがたくさんあるのだから、障害者もこのぐらいの負担や苦痛は当たり前だ」と言いたがる人が多く見られるようになった気がする。どの程度の国民がそう思っているのかは実証されていないので、そう思わない人よりも相対的に「多い」のかどうかはわからない。ただ、これはそのまま「障害者支援に予算を使うのは、国民のコンセンサスがない」と言ってしまう根拠へと化ける。そこでいう「国民」が誰のことかは問われない。おそらく議員や官僚や経済団体のことであるはずだが、それはなぜか指摘されずに「もっと一般の国民に理解をしてもらわないといけない」という現場へのメッセージへと変換される。自治体レベルならまだわからない話じゃないが、国政レベルの変革のために現場に期待されている内容は見えない。そこから「地域福祉」や「開かれた障害者福祉」の重要性へと論を展開するのは無理がある。それらの重要性は、「国民の合意」うんぬんとは別のものだ。
 また、食費や光熱費の話と1割負担の話を同等に論じることはできないし、入所施設と地域での暮らしでは前提も大きく異なる。介護保険の1割負担も今や当たり前だが、これも導入には強い批判があった。高齢者が払っているのだからという説明は説得力があるが、障害者も同様に払うべき理論的な根拠にはならない。
 と、いうようなことは主催者などもきっとみんなよくわかっているのだろう。おそらく「1割負担すべき」という主張を続けておいたほうが厚生労働省から嫌われないで済むから政治的な影響力を失わずに済む、という判断をしつつも、それでもどうしても言いたいことはちくちく指摘していこう、という雰囲気で進むシンポジウム。なんだかホンネとタテマエ、正直さとパフォーマンスの両方が見え隠れして、不思議な感じ。
 単価の話はやはり各団体への打診がはじまっている。知的障害者福祉協会はおとといだったらしい。シンポジウムの中で話されていたことなので書いても差し支えないと思うけれど、日中活動関係で言えば、中程度の知的障害者が最も一般的に利用するであろう「就労継続支援(非雇用型)」の単価がおそろしく低い金額で提示されてきた模様。もともと日割り計算になる影響で月20日開所欠席率10%とすると、20%減ぐらいになると試算されていたところに、新単価だとさらに30%減が見込まれるという。つまり、現在の通所授産施設等がそのまますべて「非雇用型」に移行すると、収入が半分になる、という異常さである。予測される職員配置は10:1。「中度の人にとっては地獄」とまで言われていた。これから1週間ぐらいで激しい攻防があるのだろうが、このままいけば間違いなく日本の障害者福祉は崩壊する。
 障害者福祉予算そのものは昨年より増えているのだ。これほどまでにどこもかしこも削られて、いったい増えているのはどこなのだろう。やはり入所系だろうか。