泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

[社会福祉]市場による評価しかないのだろうか

 福祉新聞2月13日号より。

ホームヘルパー 介護予防の支え手に 全国協議会に500人集う
 全国ホームヘルプサービス研究協議会(全国社会福祉協議会主催)が1月30日・31日両日、千葉県浦安市で開かれ、約500人が参加した。
 (中略)
 古都賢一・厚生労働省老健局振興課長は(中略)「質の高いサービス提供体制が整った事業所を評価するなど努力が報いられるものにした。努力している事業所にとってはやりやすくなる」などと説明。
(中略)
 「制度改正後の『介護保険制度』のケアのあり方と運営の方向性」をテーマとしたシンポジウムには、小林新吾・やさしい手取締役開発本部長、早崎正人・大垣市社協事務局長、小山睦子・熊本市社会福祉事業団主任ヘルパーが登壇した。
 小林氏は「利用者が介護予防をやる気になるかが大きな壁。壁をなくすためにはヘルパーの活動が重要になる」と語るとともに、同社のモニター調査の結果から「要支援1・2の人へのサービスも十分ビジネスとして成り立つ」と発言。利用者の自立支援のために介護予防に積極的に取り組むこと、ケアプランの定期的な見直しの大切さを訴えた。
 早崎氏は「ヘルパーが利用者宅にいる時間は1日のうちほんのわずかで、いない時間は地域の人が支えている。大切なのはヘルパーが行けない時間をどうするか」などと地域の福祉力をつけること、そのためにヘルパーが果たす役割の重要性を指摘。(以下略)

 介護保険改正のほうをしっかり勉強できていないが、ここでいう「質の高いサービス」とは、介護予防がうまくいって、高齢者の身辺自立度が高まることを指しているのだろう。高齢者の要介護度を高めることで稼ごうとするような悪質な事業者にサービスを改めさせようという意図がある。市場原理を入れたことの負の側面に対応することに迫られたわけだ。
 そこで考えられたのが「介護予防」への市場原理の導入である。今度は自立度を高められたほうが儲かる仕組みを作ることで、介護市場を「正しく」活性化させます、というところだろうか。介護ビジネス事業者はわかりやすく目的を転換する。これまでは「お客様は神様」でもよかったが、今後はそうもいかない。神様が嫌がることでもしてもらわなければ、儲からない。きっと「神様をいかにおだてられるか」に精を出すに違いない。こうした「質の高いサービス提供体制」が整った事業所が評価される。
 このような評価はあまりに一面的に過ぎないものだが、もともとサービスの質を評価するのは誰か。事業者自身による評価はあてにならないし、行政監査だって形式的なものだ。サービスを使う利用者自身が評価するのが一番よいし、介護保険開始当初はまさに市場モデルの中で利用者がすぐれた事業者を選び取っていくことが期待された。ところがこれがうまくいったとは言いがたい。その理由として一般的には「情報の失敗」などがあげられるのだろう。こうした視点から第三者評価のような実践を見れば、評価結果によって利用者側の情報不足を補うことで、市場をより市場らしくしようという試みにも見える。
 こうして書いてきて思うのは、この業界では「サービスの質を上げる」ための方法として「市場競争」以外の術があまり検討されていないのではないか、ということである。専門教育を受けてきた支援者だから倫理的にふるまうなんて幻想であるし、高い資格を持っているからすぐれたサービスをしているとも全く言えないことは、利用者自身がよく知っている。ならば、他に何があるのだろう。福祉的な支援の中でも介護や保育のからむ部分を除けば、まだ市場原理が入ってきていない領域はたくさんある。児童養護施設を地域に複数作って質の高いものだけが生き残ればいいという人はあまりいないだろう(「リバタリアン」などと呼ばれる人はそのように言うのだろうか?)。市場か非市場かなんて単純な図式にはならないのだろうが、市場とは無関係に行われてきた「質の高い」実践から学ぶべき点があるのかもしれない。
 介護と「地域の福祉力」の関係も気になるが、長くなりそうなのでやめておく。