泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

衆院選マニフェスト比較2017(障害者分野)

はてなブログに移行して最初の記事が恒例の「マニフェスト比較」になるとは思っていなかった。

はじめての人のためにいちおう書いておくと、国政選挙のたびに主要政党のマニフェストから「障害者」に関する部分だけを抜き出して、比較している。過去のものはこちら(参院選2010衆院選2012参院選2013衆院選2014参院選2016)。

社会保障や税制なども含む政策全体の中で見なければいけないとは思うけれど、ひとまずわかりやすく「障害児者」や「障害児者と関わる福祉・教育等の関係者」について直接言及した記述だけ確認しておきたい、という人には役立つかもしれない。マニフェストからの全文引用ばかりではしんどいので、私的なコメントもつけていく。

まずは、もちろん政権与党から。

自由民主党
政策BANK2017

人づくり革命
〇幼児教育の無償化や介護人材の確保などを通じてわが国の社会保障制度を全世代型社会保障へ大きく転換するとともに、所得の低い家庭の子供に限った高等教育無償化やリカレント教育の充実など人への投資を拡充し、「人づくり革命」を力強く推進します。
〇「介護離職ゼロ」に向けて、2020年代初頭までに50万人分の介護の受け皿を整備するとともに、介護人材の更なる処遇改善を進めることにより、現役世代が直面する介護に対する不安を解消していきます。

働き方改革
〇女性・若者・高齢者、障害や病気のある方やその家族など誰もが意欲と能力に応じて就労や社会参加できるよう、ガイドラインの制定や実効性のある政策手段を講じてテレワークや副業・兼業などの柔軟で多様な働き方を進めるとともに、就労支援、生活支援、居場所作りを進めます。

2020年東京オリンピックパラリンピック
パラリンピックのレガシー(遺産)として、心のバリアフリーの推進や公共交通機関、建築物、道路等のバリアフリー化を進め、障害者も高齢者も健常者も共生できるユニバーサルデザインの社会をつくります。

社会保障
〇地域の実情に応じた介護サービスの整備や介護人材の確保を進め、介護離職ゼロを実現するとともに、認知症の方と家族を支援します。

教育
〇いじめや不登校発達障害などへの対策を強化するため、スクールカウンセラーソーシャルワーカー特別支援教育支援員などの相談や支援体制を拡充します。

概要版とも言える「政策パンフレット」のほうには障害者関連の記述がなく、詳細を記した「政策BANK」のほうから抜き出すことになった。印象的なのは「社会保障」の項目中に「障害者」の言葉がないこと。介護人材の確保や「誰もが就労・社会参加」などは訴えているけれど、障害者に対する施策としては具体的な提案が無くなっている。

ただ、こうしたことははじめてじゃない。2014年の衆院選マニフェストでも「出産・子育て応援」の中に埋没したことがあり、そのときと内容としても似ている。一方で、昨年の参院選のときは具体的な施策に踏み込んでいて、選挙によってばらつきがあるのが自民党。与党として具体的な施策を掲げるときは、およそ道筋ができているときでもあって(実際、前回の参院選で掲げていた「医療的ケア」「訪問型発達支援」は来年度から強化される見通し)、大風呂敷は広げない。

次はちょっと長めの引用になる。

公明党

重点政策

3 人を育む政治の実現へ

障がい者のライフステージに応じた教育・支援の充実

●発達障がいを含めた障がいのある子どもが早期から継続的に適切な教育や支援を受けられるよう、発達障がい等の早期発見・早期療育支援、情報の適切な共有・引き継ぎなど、関係機関の連携による乳幼児期から就労期まで一貫した支援の仕組みづくりを推進します。

●一人ひとりのニーズに応じた連続性のある多様な学びの場の整備、特別支援教育コーディネーターの専任化のための教職員定数の改善、高校での通級指導の体制整備、特別支援教育支援員の配置促進など、障がいのある子と障がいのない子が、共に学ぶことをめざすインクルーシブ教育の支援体制を整備します。

●障がい児が幼児期から身近な子ども子育て施設を利用できるように推進するとともに、ライフステージに応じて、能力、特性を踏まえた専門的で十分な教育を受けられるよう、特別支援教育を担当する教員をはじめ、すべての教職員の資質能力、専門性の向上を促進します。

●障がいがあっても大学等で質の高い教育を受けられるように、各地域の中心となる大学へ財政支援を拡充し、障がいのある学生の修学・就職支援のための当該地域における「センター」の形成を推進します。

障がい者が安心して地域生活を送れるよう、グループホーム等の整備、農福連携・テレワークなどの就労・定着支援、発達障がい児・者の地域支援体制の強化に取り組みます。

●学習に困難を抱える子どもの学びを支援するため、デイジー教科書などのデジタル教材等を支給する仕組みを制度化するとともに、ICTの積極的な活用を推進します。

●新生児聴覚スクリーニングにより、聴覚障がいのある子どもを早期に適切な治療や療育につなげる体制を整備します。

⑸ 保育や介護従事者の賃金引き上げなど

処遇改善、キャリアアップ支援

●保育士・介護福祉士など介護従事者・障がい福祉サービス等の従事者といった今後の福祉人材の確保のため、賃金引き上げやキャリアアップ支援等の処遇改善や専門性の確保など総合的な取り組みを進めます。

●介護離職ゼロに向け、介護従事者の処遇改善や再就職支援、介護福祉士養成や学生等に対する支援などで必要な人材を確保します。

⑹ 介護の業務負担の軽減と生産性の向上

●介護事業所等のICT化による業務の効率化、情報の共有化を進め、介護従事者等の負担軽減とサービスの質・生産性の向上を図ります。

⑺ 地域包括ケアシステムの構築

高齢、障がい、児童等の対象者ごとに充実させてきた福祉サービスについて、多様化・複合化する地域のニーズに対応するため地域共生型の福祉サービスが必要となっており、それぞれの地域の実状を踏まえた地域包括型の支援体制の整備を進めます。

バリアフリーの一層の推進

●ユニバーサル社会をめざし、バリアフリー施策の見直しを行うとともに、鉄道駅等において「ホームドア」や「内方線付き点状ブロック」の整備、子育て支援施設、段差の解消や分かりやすい案内板などのバリアフリーや、心のバリアフリーなどのソフト対策を推進します。また、「新たなタイプのホームドア」のための技術開発も促進します。

高齢者、車いすの方、ベビーカー利用の方、妊娠中の方など誰もが安心して利用できる「ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)」の普及・促進を図ります。

●デジタル・ディバイド(情報格差)を解消し、高齢者・障がい者を含む誰もがICTの恩恵を享受できる情報バリアフリー社会の実現のため、ウェブサイトの改善、高齢者・障がい者に配慮した通信・放送サービス等の開発・提供を促進します。

(22)人権の保護、性的マイノリティーの支援

成年後見制度が、必要とする人に十分利用されていない状況を改善するため、公明党主導で成立した成年後見二法に基づく施策を着実に実施し、ノーマライゼーション、自己決定権の尊重などの成年後見制度の理念を踏まえつつ、制度の改善、権利制限(欠格条項)の撤廃、人材の育成、不正防止対策などを進めることにより、成年後見制度の適切な利用を促進します。

●法テラスに寄せられるDV・ストーカー・児童虐待被害者の相談が年々増加傾向にあります。認知機能が不十分な高齢者・障がい者に対する援助も含め、体制整備とさらなる司法ソーシャルワークの推進を図ります

発達障害」「特別支援教育」「成年後見制度」への熱意は昔から感じられる公明党。「新生児聴覚スクリーニング」や「デイジー教科書」「司法ソーシャルワーク」などもかねてからの公約であり、こだわりが感じられる。新たな内容としては「ユニバーサルデザインタクシー」「介護事業所の業務効率化・情報共有化」。渋い。

ここまでが現与党。いくらか具体的な部分で共通しているのは「介護人材の処遇改善」と「特別支援教育の支援体制拡充」。特別支援教育については、自民党のほうがいじめや不登校も含めて、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど「非教育職」に期待している一方で、公明党のほうは「特別支援教育コーディネーターの専任化」を目指しているという力点の違いも。

さあ、注目のあの党の障害者政策はいかに。

希望の党

希望の党政策パンフレット

公約6 ダイバーシティ社会の実現

性別、性的指向、年齢、人種、障害の有無等に関わらず、すべての人が輝ける社会を目指します。

政策集:私たちが目指す「希望への道」

5. 雇用・教育・福祉に希望を ~正社員で働ける、結婚できる、子どもを育てられる社会へ~
•医療・介護・障がい福祉に関する世帯ごとの自己負担額を合算し、所得や資産に応じて定める上限額以上の負担額は公費で補てんする「総合合算制度」を導入する。

「障がい」という表記と「総合合算制度」は、民進党の前回マニフェストから引き継がれている。前回もマニフェストにはこの一点だけの記述しかなく、マニフェストとは別に党サイトに掲載されていた「政策集」に細々としたポイントが書かれていたのだけれど、今回はそれも見当たらないので、「希望の党」としてはこれだけ。

民進党からの合流者の中には「福祉をライフワークにしている」と公言して憚らない議員もいるというのに、ずいぶんとさびしい内容。「ダイバーシティ」とは言うものの「特に、女性、シニアの力をさらに生かします」という記述もあり、「生産性の高いダイバーシティ」だけが好みなのだろうか。

日本維新の会

政策

(記述なし)

前々回の選挙で「就労支援を促進して、障害者を納税者に」(一行)。前回の選挙で「ICT技術の活用や、在宅ワークの推進で、障がい者(チャレンジド)を納税者に」(二行)。人間は働けてナンボの世界観の中でのみ「進歩」を見せてきた維新だったが、また言及が消失(4年ぶり2回目)。

「教育・子育て・労働・社会保障」のカテゴリーの中には「障害」どころか「福祉」も「介護」も出てこない。

「非与党」で「第三極」でもない二党がほとんど(全く)「障害」に言及しない、という結果。準備期間の短さは同情するが、障害をもつ有権者にとっては判断材料が何も提供されなかった。

ここからいわゆる「第三極」。

立憲民主党

国民との約束

1 生活の現場から暮らしを立て直します
②保育士・幼稚園教諭、介護職員等の待遇改善・給与引き上げ、診療報酬・介護報酬の引き上げ、医療・介護の自己負担の軽減


3 個人の権利を尊重し、ともに支え合う社会を実現します
障がい者差別解消法の運用強化、手話言語法制定の推進

障害福祉で働く人たちには「待遇改善」、障がい者には差別解消法の運用強化。総合支援法の現状に対するスタンスは残念ながら見えてこない。「手話言語法」はかつて公明党が繰り返しマニフェストに登場させていたが、民主党民進党も何も言ってこなかったはず。なぜ急に出てきたのか不明。

社会民主党

政策

3 憲法を活かした安心の社会保障

介護

〇介護従事者の賃金の引上げなど処遇改善を図り、介護人材の養成、確保に取り組みます。

障がい者

〇障害者権利条約、障害者差別解消法を徹底し、差別のない、共に生きる社会をつくっていきます。精神保健福祉法の改正案に反対し、地域医療・福祉の充実と権利擁護制度の創設の方向で抜本的に見直します。

障がい者の働く場を拡大するととともに、障がい者の所得保障に取り組みます。運賃割引制度を拡げます。

〇「手話言語法」を制定します。障がい者の社会参加に必要な情報アクセスやコミュニケーション手段を保証します。

〇ユニバーサル・デザインやバリアフリーをすすめます。

4 子ども・若者に居場所と希望を

〇障がい児保育、病児保育、一時保育などの体制を整備します。インクルーシブ教育をすすめます。

 社民党マニフェストの特徴だった「現状をたくさん書く」ことが無くなり、コンパクトになった(まとめる立場としてはうれしい)。

簡単に説明しておくと、「精神保健福祉法の改正案に反対し、地域医療・福祉の充実と権利擁護制度の創設」というのは、津久井やまゆり園の事件をきっかけとして精神障害者への監視を強化しようとする改正法案があり、それに対する批判。

共産党

総選挙政策

(膨大ですので、リンク先の「32、障害者、障害児」「36、教育」などをご覧ください…)

毎回、共産党マニフェストは全文の引用ができないほどのボリューム。総合支援法は廃止して、民主党政権時代の「基本合意」や「骨格提言」にもとづく障害者総合福祉法を制定するが、当面は総合支援法の抜本改革にとりくむ、というスタンス。

「我が事・丸ごと」政策は公的責任の放棄で、合理的配慮は努力義務から完全義務化へ。利用者負担は無料で、就労継続支援はB型でも最低賃金保障。日額払いではなく、月額払いに戻す。報酬大幅減が検討中の放課後等デイはむしろ報酬を引上げ。

実現可能性がないのはさておき、全国さまざまな地域からあがってきた課題を吸い上げて作られているようなので、自分のような関係者ですら知らなかった論点がでてきて勉強になることもある。

個人的にツボだったのは「保育所等訪問支援事業の保護者負担をなくし、自治体ごとの巡回指導も引き続き保障します」。民間の事業所による保育所等訪問支援があるからと、ずっと自治体で実施してきた巡回指導を打ち切るところが出てきている、ということなのだろう。かなり無茶な話だ。

 

さて、いわゆる「第三極」に共通しているのは「介護職員の処遇改善」と「差別解消法の推進・強化」と「手話言語法」となった。立憲民主のボリュームが少ないので、共通項を見出すことにあまり意味はないかもしれないけれど。

それでも、「与党」と「第三極」のすべてが介護職員の処遇改善は訴えているわけなので、これからも処遇改善は拡充されるのだろう(主要政党の中でこれを書いていないのが「希望」と「維新」だけであるというのはとても興味深い)。基本報酬を上げるのではなく、ちゃんと従業者に対して支払われるようにと処遇改善を条件にして加算をつける、というやり方はずっと続いている。正直言って、現場は必要とされる書類の多さにうんざりしているし、手放しでの評価はできない。それでも、何もないよりはマシ。

 

全体として、 障害児者が使える福祉制度の内容についてはあまり書かれなくなり、一般施策(教育とか労働とか)の中での支援に関心がシフトしているような印象。福祉制度に課題があっても、複雑すぎて扱いづらいということかもしれないし、「集票」を意識すれば支援対象の裾野は広いほうがよいということかもしれない。いろんな解釈ができると思う。

以上は「障害者」に限ったマニフェスト紹介に過ぎないので、誰かが「子どもの貧困」とか「不登校」とか「生活困窮者」とかでも作ってくれるとうれしい。やってみるとわかるが、けっこうめんどくさい作業である。

あ、「日本のこころ」を書き忘れていた。もちろん記述なし。