泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

チョコミントの練習問題

 ずっとその店に行くことはなくなっていた。彼がお気に入りだったチョコミントアイスの販売が終わってしまったからだ。彼は重い知的障害を伴う自閉症児である。
 店のおばちゃんやおねえさんはすっかり顔なじみだった。ただ、どの商品を売るのかについての権限を持ってはいないだろうから、売れない商品がなくなるのは仕方ない。彼以外にチョコミントアイスを買う客を見たことはなかった。
 彼はチョコミントアイスを求めてしばらく足を運んでいた。空っぽになったケースを指さして訴えるが、やがてあきらめて店を出ていく。おばちゃんたちはとてもすまなさそうにしていた。別の商品がケースにおさまるようになって、そのうち店に行くこともなくなった。
 その店にチョコミントアイスがまた入荷されるようになったと情報が入る。それが、彼のためのものであるのかはわからない。でも、なんとなくおばちゃんたちの尽力を想像してしまう。
 それでも彼には、ひとたび行かない習慣ができると、今度はどんなに誘っても行きたがらない特性もある。彼のための再入荷だったら申し訳ないなと思いながら、時間が流れていた。
 そして、今日。夏休みのため、最近とは違うスケジュールを組んだために彼は店の前を通り、チョコミントアイスの存在に気づく。自分から店に入っていき、指さして訴える。数か月ぶりの購入。
 店のおばちゃんもおねえちゃんもみんな出てきて幸せそうだ。久しぶりの彼とヘルパーにいろいろと声をかけてくださる。なんだか、うれしい。
 しかし、である。彼がチョコミントアイスをずっと買い続けていたのは、自分の力ではもう抜け出せないパターンであったからだと思う。
 強くは訴えるが、さほど美味そうに食べている様子でもなかった。でも、他の商品を選ばせようとしても、他の店を薦めても、「変える」ことができない。それゆえ、販売が終わり、本当に望んでいるとは思えないものを買い続ける流れが断たれたことを、家族もヘルパーも前向きに評価している部分があった。
 さて、次回、またチョコミントアイスを「買わねばならない」と思って、彼は売店に行くかもしれない。
 いったい何を大切にするのがよいか。支援者の傾向が見える練習問題のようなもの(いろいろ脚色はしている)。