泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

江戸川区の「おやつ」の話を覚えていますか?

 もう2年ほど前のことになるが、少し多くの人に読まれた記事を書いた。江戸川区学童保育における「おやつ」の話である。
「おやつ廃止」はもうちょっと複雑な話
http://d.hatena.ne.jp/lessor/20130227/1361989441
江戸川区の異様な「便宜供与」について
http://d.hatena.ne.jp/lessor/20130306/1362568023
 新たな動きがあったのだが、まずは振り返ってみよう。
 学童保育所では「おやつ」を出すのが一般的だった。ところが、江戸川区では保護者の就労を伴わなくとも使える「放課後子ども教室」と学童保育所の一体的な運営がはじまり、それを機に「補食(おやつ)」を廃止してしまった。学童は社会福祉事業であるのに対し、放課後子ども教室は一般に教育行政が受け持つのだが、自治体によってはどちらも同じ課が管轄していることがある。
 学童保育に子どもを通わせる親たちは、給食から夕食までに時間が空きすぎて、低学年の子どもには好ましくないと、補食の継続を求める運動を繰り広げた。が、江戸川区教育委員会及び議会の対応は冷たいものであった(もちろん味方となった議員もいたのだけれど)。そのころの陳情の数々や教育委員会、議会の状況は次のサイトに詳しい。
江戸川区・学童補食の継続を願う会
http://hoshoku.blogspot.jp/
 「子どもの肥満防止」「廃棄食材の問題」「食物アレルギーの子に対応困難」という理由づけからはじまり、次第に「保護者が働いているところだけにおやつを出すのは不公平だ」になり、「保護者による自主運営なら認めてもいい」と言いだしたので、保護者有志が「やります」と手をあげたら「やっぱりそれでもダメ」と言い、働く親たちに対する教育行政の冷淡さがよくわかった。このあたりのプロセスは上のサイトの一番新しい記事に書かれているので、読んでいただけるとよい。
 さて、この4月1日に厚生労働省から「放課後児童クラブ運営指針」が出された。
「放課後児童クラブ運営指針」の策定厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000080764.html#
策定の理由としては、

平成27年4月からは、省令基準を踏まえて策定される各市町村の条例に基づいて放課後児童クラブが運営されることになるため、その運営の多様性を踏まえつつ、放課後児童クラブにおいて集団の中で子どもに保障すべき遊び及び生活の環境や運営内容の水準を明確化し、事業の安定性及び継続性の確保を図っていくことが必要です。

とのこと。要は「市町村で勝手なことすんな」ということである。
 そして、運営指針の中で「おやつ」については、こう書かれた。

7.子どもにとって放課後の時間帯に栄養面や活力面から必要とされるおやつを適切に提供する。
・発達過程にある子どもの成長にあわせて、放課後の時間帯に必要とされる栄養面や活力面を考慮して、おやつを適切に提供する。おやつの提供に当たっては、補食としての役割もあることから、昼食と夕食の時間帯等を考慮して提供時間や 内容、量等を工夫する。
・おやつの提供に際しては、安全及び衛生に考慮するとともに、子どもが落ちついて食を楽しめるようにする。
・食物アレルギーのある子どもについては、配慮すべきことや緊急時の対応等について事前に保護者と丁寧に連絡を取り合い、安全に配慮して提供する。

 もう江戸川区に向けて書かれているのではないか、と思えるくらいの内容であった。おお、これで江戸川区でおやつを求める親子は救われるだろう。そう思った。
 しかし、久しぶりに江戸川区の状況を確認すると、話はそんなに簡単ではなかった。なぜなら、江戸川区は昨年10月に児童福祉法に基づく学童クラブ条例」を廃止していたからだ(参照)。これにはびっくりした。
えどがわ学童保育フォーラムBlog
http://edogawa-gakudo-hoiku-folum.blogspot.jp/
 すなわち保護者の就労保障の必要性は否定できないが、一般的な学童保育所で必要とされることに縛られたくないから(かつ全児童対策の事業が対外的に高い評価を受けていっそう推進していきたいため)、わざわざ国からとやかく言われずに済むよう「児童福祉法に基づかない形で学童クラブ機能をもたした事業をやっていきます」という戦術である。
 さて、江戸川区は国の指針が出ても「もう児童福祉法に基づかないから関係ないもんね」と言うのであろうか。どう考えてもこの指針は「親が働いており、放課後に生活の場を必要とする子どもにとって必要な支援の指針」として書かれていると思うのだけれど。どのような事業形態であれ、「おやつが補食の役割をもち、栄養面で必要」というのは、もはや否定のしようがない。そして、厚生労働省はこれまでのような強引なやり方を認めるのだろうか。
 「おやつ」というのはひとつの象徴的な話であって、重要なことは福祉的な観点から子どもにとって必要と認められていることが、個々の自治体の教育行政による判断で覆されてもよいのか、ということである。もしそれがOKとなるならば、厚労省が出す指針には大した意味がなくなる。自治体はより安上がりで多くの人数を相手にできる放課後子ども教室(正確な表記はあの文部科学大臣の意向による「放課後子供教室」)に学童保育を統合させて、福祉事業に対する指針は無視していくことができるだろう。
 どうするつもりなのか? ぜひとも江戸川区にも厚生労働省にも答えてもらいたい、と思う(できれば、文部科学省にも)。