泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

行方不明をもう繰り返さないために

 豊中で行方不明になっていた子ども、気になってその後の経過もずっと追っていたが、残念な結果となった。関係者は本当に無念だろうと思う。心からご冥福を祈りたい。
 事業所を責めるのは簡単であるが、知的障害児者と関わりのある多くの事業所は「ありえないこと」と済ませられていないだろう。ひとつ誤れば、どこでもありうることだ。もちろん今回のような結果にまで至るのは稀であっても、福祉業界で「ヒヤリ・ハット」と言われるような「あわや行方不明」のケースは多くの支援者が体験しているのではないか。
 福祉施設に限らず、子どもが家を抜け出して大変なことになった、という経験をもつ保護者も多い。特に重い知的障害を伴う自閉症児が家からいなくなって警察に通報されることは、週に2度や3度は全国のどこかで起こっているのではないか。この10年ほどの間に、わが地元だけでも4〜5件はあった気がする。
 子どもが事業所から出ていかないようにするのは、簡単である。子どもには開けられないような複雑なカギをつけてしまえばいい。あらゆる出口を容易には開けられないようにしてしまえばいい。しかし、それは言葉を変えれば「閉じ込め」である。身体拘束でこそないが、本人の意思による行動を支援者の都合で防ぐ、という意味では同じだ。「どうやっても出られないようにする」ことに、抵抗感をもつ支援者は多いだろう。自分も共感する。
 また、防災上の観点から言うと、「何かあったときにすぐ施設を出られない」のはよくないとも言える。火事や地震などの際に子どもをすぐ避難誘導できるためには、職員が簡単に出入口を開けられなければならない。開閉の仕組みを複雑にすると、職員でもすぐに扉を開けられなくなる。
 ならば、子どもに目が行き届きやすい環境を作ればよい。ワンルームと広いトイレと事務所しかないような事業所であれば、すべての子どもが視界にとらえられる。しかし、知的障害や自閉症の子どもが多く集まれば、感覚過敏があって他児の出す声に耐えられないとか、区切られた空間でないと集中して課題に取り組めないとか、同じ場所を多くの用途に使うと混乱するとか、興奮してしまった後に気持ちを静めるスペースが必要だとか、相性の悪い子と別の場所で過ごしたいとか、ワンルームでは難しい理由が山ほど出てくる。
 そして、部屋数を増やせば、死角が生まれる可能性は上がる。単に外へ出られないようにするだけならば、出入口に至る通路に必ず人がいられる状態を維持できればよいが、職員は門番じゃないのだから、自ら子どもの近くに行くだろう。すると全員を見渡せていない場面は出てくる。
 今回の事故が起こった放課後等デイサービスの人員配置は、子ども10名に対して、管理責任者1名と指導員等2名の計3名が最低基準である。支援学校での教員配置などと比べると、かなり少ない。人を増やすことに対する加算があるので、多くの事業所はもう1人置いているだろうが、それでも10:4にしかならない。排泄介助の必要な子がトイレに行き、同じタイミングで子どもどうしでのケンカが発生し…、などといくつかの出来事が重なれば、一気に全体への目は行き届かなくなる。
 自戒を込めて書くが、過去に自事業所でも玄関のドアを開けて出て行かれたことがある。敷地を出ていく直前に見つけられたが、サムターン(2つ)を外すことはできないだろう、という油断が職員にあった。
 自分が主にやっているマンツーマンの知的障害者ガイドヘルプでさえも、利用者を見失ったことがある。これらはどちらも大人の方だったけれど、一度は高さのあるゲーム機が立ち並ぶゲームセンター。もう一度は動物園。
 ゲームセンターは、続けざまに方向転換した本人を見失った。3メートルくらい後ろを歩いていたが、本人の後に続けて通路を曲がったら姿が見えない。ゲーム機の間を繰り返し細かく曲がったのだろう。見つけるのにかかったのは1分ぐらいだったろうが、ずっと長く感じた。動物園は、トイレに入っていくのを遠くから見守っていたが、なかなか出てこないと確認しにいったら、いない(実際はいたが、きちんと探せていなかった)。
 こうした失敗を防ぐには、まず本人の行動特性を把握することである。放課後等デイの場合は、それと施設設備の環境とを重ねたときに生じることの予測を立てていくことになる。「そんなことはわかっている」とみんな言うだろう。
 しかし、子どもが出て行ってしまった経験からは「なんで出ていきたいのか」への反省は十分になされずに、「目を離さない」「よりドアの開閉を厳重に」など事後的な対処に発想が偏りやすい、と自戒する。出ていこうとするのはどんなタイミングだったのか、を考えたら、滞在する時間の使いかたや示し方に失敗しているとか、放課後等デイだけで生活を支えようとしすぎているとか、いろいろ見えてくるはずだ。
 頑張って本人に合ったプログラムを組んでいるが、それでも急に飛び出していく不安が拭えない、というときは、ドアが開いたときに音が出るようなセンサーをホームセンター等で買ってきて、事業所の出入口に設置するのも有効。ただ、ドアの開閉時にいちいち音が出ることが、事業所内にいる他の子どもに及ぼす影響もあるので、いつでもうまくいくとは言えない。悩ましいところだ。
 業界全体で同じ哀しみを二度と繰り返さないようにしたい。