泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

当事者はこの説明で納得するのだろうか

 特に選挙前だから、というわけでもないのだけれど、偶然に書店で見つけたので。

 民主党政権時代に、厚生労働大臣政務官など務めた国会議員による著作。介護、福祉、医療、雇用など、社会保障にずっと力を入れてきた議員が、政権についているあいだ、何を考え、どのように動いてきたのか、が少しわかる。
 当然と言えば当然だが「こんなに頑張りました」「こんな成果を上げました」という内容が中心になるので、いろいろ不満は募る。とりわけあんなに批判していた障害者自立支援法をほとんど変えられなかったことについて、

 この2年後(引用者注:ホームヘルプや通所サービスなどについて、市町村民税非課税世帯の利用者負担を無料化した2年後)に自立支援法を改正。さらに、3年後に自立支援法を廃止し、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下、障害者総合支援法)が成立しました。しかし、医療が無料化されていないことや、多くの当事者が参加した障害者総合政策会議の骨格提言が、財源確保のメドが立たなかったなどの理由で十分に障害者総合支援法に反映されなかったことなどから、障害者団体からは『公約違反』と批判を受けることになりました。
 医療の無料化ができなかったので、批判を受けるのは当然ですが、60万人の障害者の福祉サービス一割負担が無料化になったことは、自立支援法で傷つけられた障害者の尊厳の回復が、一歩前進したと思います。
 しかし、障害者福祉の予算不足や課題は、まだまだ山積しています。引き続き、取り組みたいと思います。(34-35ページ)

 このような書き方で納得する関係者がどれだけいるであろうか。この業界について明るくない読者なら「民主党政権時代に障害福祉サービスの無料化を実現したのか」と読んでしまいかねない。
 資料として掲載されている新聞記事にも書かれているとおり、自公政権時代に負担軽減策がとられ、「1割負担」は平均3%程度の負担にまで下がっていたのだし、自立支援法廃止から新法成立にかけては何もできなかったに等しい。「十分に反映されなかった」などというレベルではない。「何も反映されなかった」のだろう。骨格提言に対する「ゼロ回答」に対して、説明が少なすぎる。
 社会保障に関連して、あまりマスコミでは大きく報じられないような法律が議員立法でいくつも成立されてきたことや厚生労働官僚の努力、財務省との対決など読むべきところはある。自民党と比べて、社会保障を大事に考えてきたこともわかる。これと同じような本を書ける国会議員は少ないだろう。
 しかし、最終的な反省が「財源確保の見通しが甘かった(146ページ)」で、「恒久財源を確保せずに、社会保障の充実、維持を主張するのは無責任だと考えた(191ページ)」から消費税10%を決断した、というのでは、これからどうやって与党と対峙していくのだろう。昔、この方は「障害福祉も財源確保のため介護保険に統合」と言っていたと思うのだが、その考えはいつどのような理由で転換したのかもわからない。
 障害者関連の施策は、当事者の声を受けた変革ではなく、政党を超えて合意形成のしやすい「従事者の雇用改善」へと向かいつつあることはなんとなくわかった。支援に対する報酬が低い、という課題に対しては、それでよいのだろうとも思うが、それだけで必要な支援が整えられるわけでもない。障害当事者への共感でなく、支援者を生かすための政治に、我々は頼っていくほかないのだろうか。