泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

「6.5%に発達障害の可能性」とは言うけれど

 一読して、誤解というか、偏った理解を招きかねないよなあ、と。
小中学生の6.5%に発達障害の可能性 4割は支援受けず日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0404C_V01C12A2000000/
 前回の調査は2003年だった。そのときにはじめてはじきだされた「6.3%」という数字は、強いインパクトをもって広まっていったのだが、この数字は「支援が必要な子どもがこんなにたくさんいる」という評価と「個性的な子どもたちが『障害児』としてラベリングされている」という評価を両方生んだ。調査において回答しているのが「教員」なのて、回答結果にばらつきが避けられないことも影響している。おそらく今回の結果も、さまざまな立場によって自説を裏付けるために使われるのだろう。
 日経の記事では「学習障害(LD)の可能性があるのは4.5%」「注意欠陥多動性障害ADHD)とみられるのは3.1%」「高機能自閉症と判断されたのは1.1%」と書いてあるが、はっきり言っておきたい。調査結果の本文中で、子どもたちに対してこれらの診断名(障害名)は全く使われていない。評価項目の作成にあたって参考にしたことなどは書かれているが、この記事のような要約は調査にかかわった人たちの望むことではないだろう。「発達障害」概念が過剰に使われないためにも、過少に使われないためにも、もう少し正確に伝えてもらいたいと思う。
通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2012/12/05/1328849_01.pdf
 原文を読んでもらえれば一番よいが、全19ページの報告書の本文中で「発達障害」という言葉が数回は出てくるものの「発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒」という使われ方で「支援の必要性」を強調するか、「発達障害に対する知識技能」など教職員側が学ぶべき内容を示唆する文脈でのみ使われている。
 調査で出てきた数字に関しても「困難を示すとされた割合」という慎重な表現を用い続けており、「発達障害児」であるとは全く言っていない。「留意事項」にもはっきりとこう書かれている。「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合を示すことに留意する必要がある」。診断を受けることが必要だなんてことも全く書かれていない。全体を読み通すと「発達障害の可能性のある」とあえて書く必要があるのだろうか(「特別な教育的支援を必要とする」だけではいけないのだろうか」とも思える内容で、支援の必要性を主張するために「発達障害」という言葉を使っている、と理解すべきではないかと思う。
 内容についても、少しだけ書いておきたい。「発達障害と言えば『コミュ障』」みたいなイメージも一部に広まりつつあるが、この調査で確認されているのは3つの面における「困難さ」である。

1.学習面(「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」)
2.行動面(「不注意」「多動性−衝動性」)
3.行動面(「対人関係やこだわり等」)

 話題になりやすいのは「3」の行動面であり、次に「2」の行動面だろう。
 「3」は、27の質問項目に対して「多少(1点)」「はい(2点)」を合計して22点を上回ると「対人関係やこだわり等の問題を著しく困難を示す」とされる。この質問項目を個別に取り出すと、「友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど、友達関係をうまく築けない」とか「大人びている。ませている」なんてものまであり、確かに「『障害』なのか?」という批判を受けるのもうなずける部分はある。ただし、これで22点を超えた子どもは全体の1.1%である。
 「2」は、注意力や落ち着きのなさを点数化している。こちらで基準のポイントを超えたのは全体の3.1%で、中学3年時では1.8%まで減っている。「6.5%」とは少し印象が変わるのではないだろうか。また、「1」や「2」の項目には「対人関係」「社会性」では片付けられないものが多数含まれており、「発達障害は社会的なもの」と言うばかりでは済まないことも理解されるだろうと思う。
 そして、この調査で高い点数をとった子どもたちを「発達障害」とラベリングして「分けよう」なんてことも全く考えられてはいない。むしろ逆である。そもそも必要な支援が行われているかどうか、も併せて調査されている。日経記事には「個別支援計画」の有無しか書かれていないが、より多岐にわたって必要な支援や配慮がなされていないことを確認できるものとなっている。回答しながら、教員は「やれって言われていることが全然できてねえな…」と思わされただろう。最後の「考察」部分に書かれた国や教育委員会への「提言」をほんの一部だけ引用する。

通常の学級においては、学級規模を小さくすることや複数教員による指導等の指導方法の工夫改善を進めることが必要である。
また、通級による指導を引き続き充実させる必要がある。特に、児童生徒がその在籍している学校で指導を受けられる機会を増やすことができるよう環境整備を進めることが望ましい

学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒を取り出して支援するだけでなく、それらの児童生徒も含めた学級全体に対する指導をどのように行うのかを考えていく必要がある。

 個人的には「もうちょっと違う項目で調べたほうがいいんじゃないだろうか」と思える部分も多々あるのだが、ちゃんと中身を見れば前向きになれる部分も多い調査である、と知ってもらえたらいいな、と思う。