泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

「子どもの精神科」が増えない理由

児童精神科医が教える 子どものこころQ&A70

児童精神科医が教える 子どものこころQ&A70

 「児童精神科医療」とその周辺知識についてのコンパクトな入門書なのだけれど、Q&Aの2つ目が「児童精神科における採算性について」であるという点に単なる医学的知識の付与にはとどまらない著者の意図が感じられる。
 診療報酬が低いということは知っていた。しかし、具体的な額を聞くと少し驚く。

 ・・・児童精神科外来をひらいている精神科は数えるほどしかありません。数が少ない理由として、採算性の問題があります。
 前書きにも書いたように、児童精神科外来診療は成人患者さんの倍以上の労力を要します。・・・診療報酬は、「診察料(初診か再診か)」+「技術料」からなります。大人1名を診察すると、初診で270点、精神保健指定医という資格をもった医師が診察すると500点の精神療法が算定でき、合計770点の保険請求となります。多くの場合は3割負担ですから、この場合は患者さんの負担は2310円となるわけです(平成24年改定前)。
 一方、受診時20歳未満の患者さんの場合は200点の加算がつき、合計970点となります。再診の場合は、再診料70点、精神療法330点、合計400点(なお、精神療法については制度改定毎に診療報酬が下がっています)。これに200点の加算がつきます。ただし、この加算は受診から半年で切れていましたが、平成20年の診療報酬改定によって1年間に期限が延長されました。それでも、大人の診療の倍以上の報酬があるわけではありません。

 これはあまりに低い額ではないか。
 例えば、児童福祉法における「放課後等デイサービス」と比較してみよう。障害をもつ子どもを放課後に預かる(「療育」をしてもいいが、実質的にはほとんどの事業所が一時預かりだろう)場合、定員が10人以下ならば基本となる給付が478単位、管理責任者を専任で置くことによる加算(これは100%の事業所が申請していると思われる)が205単位、おそらくほとんどの事業所が申請しているであろうスタッフの加配(最低限必要とされるよりも多く人を配置すること)に伴う加算が193単位、全て合わせると876単位である。8760円。児童精神科診療の初診を少し下回るぐらいの額になる(送迎とか専門職の配置によってはさらに加算があるので、上回る場合も出てくる)。再診は大きく上回る。基本的に福祉は1割、医療は3割の自己負担だから、公費部分だけならば、どうやっても「放課後等デイ」のほうが上回る。
 診療と比べれば放課後支援の利用は長時間だろうし、複数の子どもを複数のスタッフで見る体制なので単純な比較はできないが、極端な例をあげれば放課後に2時間、10人の子どもを4人のスタッフで見ることで、その放課後等デイは87600円の収入が得られる。このときスタッフは管理責任者を除いて資格を何も問われない(実際の事業所指定に際してはいろいろ注文をつけられるかもしれないが、少なくとも法的には定めがない)。これと同じ額を得るだけの診療をひとりの児童精神科医は何人の人員の助力を得ながら、何時間かけて行わねばならないのだろうか。
 児童精神科を開業しようとすれば、心理士や事務職だって雇わなければいけないだろうし、人件費は福祉職よりもはるかにかさむはずだ。このあたりの地域には公的あるいは準公的な機関を除いて児童精神科なんてひとつもない理由がよく理解できたし、今後も容易には開院されないだろうという見通しも立った。まだまだ親子は遠方まで足を運ぶしかなさそうである。