泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

「不可解」なものへの批判は危うい

 BLOGOSにも載ったみたいだけれど。元記事のほうにリンク。
出た!特別養護老人ホーム内部留保は「2兆円」!
http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/35789142.html
 著者は以前から社会福祉法人内部留保問題について問題視されており、自分はNPO法人のへっぽこ経営者として、いろいろと社会福祉法人のもつ様々な特権性に思うところはあるわけだけれど、どうもすっきりしないのである。
 ひとつには自分が仕事をしているのが障害者福祉分野であり、近隣の社会福祉法人を見ていると、高齢者分野とは経営状況が違うのではないか、と感じられる部分が多々ある。そのため「もし、いっしょくたにされてしまったら、障害者福祉にとってマイナスなのではないか」という不安がよぎるからであろう。特に報酬改定などに悪い影響があってはたまらない、と。ただ、記事はあくまで「特別養護老人ホーム」について書いているのであり、これは杞憂と言われれば、そうなのかもしれない。
 すっきりしない最大の理由は、「で、なんでそんなに内部留保するの?」という疑問に対して、これではまったく答えを出せていないからである。理事が役員報酬でがっぽり、という話ではない。「経営者が甘い汁を吸っている」ではなく、「労働者に分配していない」ことが指摘されているだけであって、そんなに貯め込んで、いったいどうするつもりなのか、ということについて記事は何も説明していない。
 どんどん金が貯まってしまっているにも関わらず、報酬増を要求する理由がどこにあるのか、さっぱりわからない。記事中でも、まさに「理解不能」と書かれているが、なぜそんな「理解不能」なことをするのか。それが「理解」できるような解明をしないと、十分な批判はできないだろう。この記事で明らかにされたのは「不可解な」内部留保がある、というだけである。「不可解」なまま「介護報酬を上げる必要はない」という結論に至れる理路がわからない。まず「この件について社会福祉法人は説明責任を果たせ」という主張をすべきではないのだろうか。
 もっと関係者が積極的に口を開いてくれるとよいのだけれど、こうした記事について特養経営者からの反論が聞かれることもなく、「特養がムダにボロ儲け」説は正当、ということでいいのか?と、妙な不安が膨らむ。友人に特養で勤務している者もいるので。
 社会福祉法人が施設整備等においてNPOや企業より恵まれているのは間違いないものの、それは社会福祉法人が「優遇」されているのか、NPOや企業が「冷遇」されているのか。「社会福祉法人も銀行から借りるリスクを背負うべきだ」という主張につながっていくのだとしたら、それは高齢者福祉業界全体にとって、幸せなことであるのだろうかとも思う。
 内部留保が一施設あたり3億円と聞くと、たしかに聞いた直後はものすごい金額のように感じられる。しかし、そこからまた少し考える。もし待機を解消すべく、特別養護老人ホームを新設するとしたらいくらかかるだろうか、と。施設整備に対して多くの補助が得られるとしても「3億」は十分なものなのか。スケールが大きすぎて、零細NPO経営者の自分にはよくわからない。ただ特養の新設には10億単位の金が必要なのだろう、ということは容易に想像できる。「建てたい」意向があるからといって、簡単に建てられるものでもないであろうことも、想像できる。
 多様な「特別養護老人ホーム」を主語にして語るのが適切なのかどうかもわからない。このあたりはもっと多くのデータが出てこれば明らかになるのかもしれない。「今まで表に出なかったデータが出てきた」ことの評価をしつつ、次に「仮説と検証」のステップに移らないならば、このままではただセンセーショナルなだけの記事で終わるのではないか、と思う。
 次のステップに移るためにも、多様な特別養護老人ホーム経営者が「理解できる」(「合意できる」かどうかはともかく)説明を発信してくれることにも期待したい。

新型特養 軒並み経営難
http://www.shikamanosato.com/appeal/05singata.html
「新型特養」突然経営難に陥ったワケ
http://www.j-cast.com/tv/2008/08/27025794.html