泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

まさかの7行

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識

 著者は、大御所バロン=コーエン。出版社は、自閉症関係の書籍を出してきた印象があまりない中央法規(amazonで検索かけたら、実際はそうでもなかった)。どんなものかと思って読んだけれど、いい意味で個性の強い本になっていた。
 「入門」として学生や保護者には薦めるには厳しい。文章も説明もやさしいけれど、実践的なアドバイスをするというよりも、最近の研究成果を通じて自閉症を説明しようとすることが主たる目的になっている。脳科学など生物学的な議論が占める割合が高いのは、まあ当然。
 科学的に実証されていないことについては慎重な表現を用いており、全体にエビデンスにこだわった内容。望ましい臨床研究のデザインとはどういうものか、についても説明があり、「あなた自身もある介入方法に根拠があるのかどうかを調べることができる(146ページ)」。とはいえ、日本で一般の人々がアカデミックな研究成果に直接あたって、それを評価するのは難しいだろう。本書で紹介されているのは、英国のウェブサイト(http://www.researchautism.net)だが、日本で同じようなサイトがあったとしたら、保護者や支援者は有効活用できるだろうか。
 「介入方法」の取り上げ方にやや違和感を覚える。音楽療法と芸術療法と言語療法に2ページずつ。この3つがいかなる意味での「療法」であるのかについての説明は少し足らないと思う。特に前二者については、ほとんど「音楽は安心できて楽しい」「芸術は言葉に頼らないで済むから楽しい」としか読み取れない(対話形式にデザインされた音楽セッションの可能性についてはほんの少しだけ書かれているけれど)。このあたりが自分の「音楽療法」「芸術療法」に対する不信感にもつながっている。いや、もちろん楽しいのはとても大事なことなんだけれど、わざわざ「療法」という意味がピンとこない。暇があったら、紹介されているウェブサイトなどを見てみることにしよう。
 ちなみに、他の方法の紹介はほとんどが数行程度。自閉症関連本でエビデンスを強調しながらTEACCHの説明がわずか7行しかないというのも珍しい。少し不思議。