泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

同じことを言っている。が、同じでは済まない。

 民主党マニフェストが出た。暑さと長いケア労働時間に早くもバテ気味だが、触れないわけにもいかない。悪い意味で。

26.「障害者自立支援法」を廃止して、障がい者福祉制度を抜本的に見直す
【政策目的】
障がい者等が当たり前に地域で暮らし、地域の一員としてともに生活できる社会をつくる。
【具体策】
○「障害者自立支援法」は廃止し、「制度の谷間」がなく、サービスの利用者負担を応能負担とする障がい者総合福祉法(仮称)を制定する。
○わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、「国連障害者権利条約」の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に「障がい者制度改革推進本部」を設置する。
【所要額】
400 億円程度

自民党から、自立支援法を応能負担にして、発達障害者等も含めていく改正案が出されていたと思うのだが(そして、この解散でお蔵入りとなったと思うのだが)、いったいどう違うのだろう。

障害者自立支援法」の抜本見直し
一人ひとりに、適切な支援を実現するために。(平成21年5月発行 自民党

http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/pamphlet/pdf/2009_syougaisya.pdf

改正のポイント
1 利用者負担を、個々の能力に応じた「応能負担」に改めます。
2 適切な支援が行えるよう、障害者の範囲と障害程度区分を見直します。

 上の資料にも書かれているが、平成18年12月の特別対策は、利用者負担の軽減や事業者への激変緩和措置に3年間で1200億。19年12月の緊急措置は310億円。平成20年度補正では前記した特別対策の基金を3年間延長して、650億円積み増し。ちなみに平成21年度補正では、事業者の処遇改善や新体系移行のために3年で1500億円規模の積み増し。
 自立支援法の介護給付プラス訓練等給付の予算額の変化はと言えば、

平成17年度(まだ支援費) 3769億円
平成18年度(以下、自立支援法) 4131億円
平成19年度 4473億円
平成20年度 4945億円
平成21年度 5072億円

http://www.kaigoseido.net/topics/08docu/h21gaisanyoukyuu.htmなど参照

 さて、「400億円程度」で何ができると思うか(きっと応能負担化はできるのだろうが)。
 普通に考えれば、もうすぐ自立支援法は廃止されることになる。支援費制度以降、事業所はおそらく利用者以上に振り回され続けてきた。新体系に移行したところもあれば、まだのところもある。収入は増えたところもあれば、減ったところもある。地域生活支援事業の中では、地域ごとにばらばらの制度設計がなされ、報酬単価も従業者要件もばらばらになった。
 これをまた振り出しに戻すのだとしたら、大混乱は必至であろう。いったい何がどのように変わってしまうのか、恐ろしくて仕方がない。わかりやすく「良くなった」ことが示せる仕組みを作ろうとすれば、必ず何らかの代償が求められるに決まっている。
 率直に言う。ひとまずは予定されていた自立支援法の改正で十分だった。よっぽど見通しがもてる。

(7/28追記)
 岡部耕典さんのメーリングリストで「予定されていた自立支援法の改正で十分だった」について批判的に言及していただいたようなので、言い訳がましく追記。「十分だった」に「ひとまずは」と付したのは、さまざまな立場・意見が錯綜する各種の運動が、今の政権や厚生労働省財務省を相手にして、追い風となる政治情勢もあったとはいえ、法の施行後3年で成し遂げられた改正としてはよくがんばったのではないか、ということ。今回予定されていた改正で、地域生活がパーフェクトだと言うつもりは全くありません。
 ところで、知的移動介護の「復活」については、正直に言って岡部さんとは少し違う意見。これについては自立支援法の施行時に地元や近隣の自治体に対してかなりがんばって働きかけをして(そのプロセスもこのブログのどこかには残っていると思うけれど、記事を整理するのが苦手で、今となっては自分でも見つけられない)、この地域の現状からして少しでもサービス提供がしやすく、かつ事業所としても運営が維持できる(支援費時代終盤と比べても、1割強程度の減収で済み、従業者要件も問われない(そのかわり事業所として一定の時間の研修を義務づける))形にこぎつけられただけに、これが改めて国事業に戻ったときには、サービスの利用・提供を「抑制」するためにさまざまな形での締め付けが生じるようにしか思えない(ましてや「400億」では)。サービスの支給量や内容について地域格差が激しくあるのも承知しているが、地域ごとに柔軟な制度設計が認められる仕組みを残しておいてほしいというのが本音。
 人の生活を支える仕組みに「地域ごとの柔軟な制度設計」なんて必要あるのか、理想的普遍的な仕組みひとつで十分なのではないか、と言われれば、それは原理的には正しいと思う。が、そこにたどり着くまでの何年かかるかもわからない紆余曲折の中で、うちの事業所は生き残れる自信が、ない。移動支援部分について言えば、40人ほどの利用者を職員3人と、ボランティアから自前で育て上げた学生アルバイト20余名で支援している事業所である(移動支援については全体の6割が学生による提供)。この形態で行う移動支援に自分たちは(利用する子どもたちの保護者たちも)さまざまな価値を見出している。この形で支援を続けていくために容易には譲れない点がある。国事業に戻ったときの不安は報酬面以上にこの点である。
 最後に、意見の相違はどうあれ、面識はおろか何の接点もなく、運動の上の立場もはっきりしない、こんな匿名支援者の書いたものを紹介していただいてありがとうございます、岡部さん。